研究課題
界面活性作用を有する胆汁酸は、胆汁鬱滞による高濃度存在時、細胞膜の脂質二分子膜構造を破壊することで肝障害を惹起する。これまでに研究代表者は、ヒト胆汁中の胆汁酸による肝細胞障害が、胆汁中の主要リン脂質であるホスファチジルコリン(PC)と胆汁酸との混合ミセル形成によって減弱することを報告している。すなわち、胆汁中へのPC排出を促進する薬物は、胆汁鬱滞時にみられる肝障害を軽減することが期待できた。さらに、胆汁中へのPC排出には、肝細胞に発現するATP-binding cassette transporter B4 (ABCB4)が必要であり、研究代表者はタウロヒオデオキシコール酸(THDC)とタウロウルソデオキシコール酸(TUDC)が、ABCB4からのPC排出を促進することを見いだしてきた。本研究では、コール酸含有食を与えて作成した胆汁鬱滞性肝障害モデルマウスにTHDC、TUDCを投与した結果、胆汁鬱滞性肝障害の改善を示す肝障害マーカーAST、ALTの上昇抑制がみられた。また、胆汁鬱滞性肝障害を誘発したAbcb4遺伝子欠損マウスを用いた検討から、特にTHDCはABCB4のPC排出促進を介した胆汁鬱滞性肝障害の改善作用を有することが示唆された。さらにABCB4のPC排出機序を詳細に解明することを目的に、ABCB4に2箇所ある糖鎖修飾部位に変異を導入し、タンパク質の安定性やPC排出活性に及ぼす影響を評価した。その結果、ABCB4に修飾された複合糖鎖が、プロテアーゼからの分解を抑制する一方、胆汁酸によるPC排出を阻害することを見いだした。すなわち、複合糖鎖はプロテアーゼのABCB4への接近を阻害することでタンパク質安定性を向上させることが示唆された。そして、胆汁酸によるABCB4のPC排出促進作用においても、胆汁酸のABCB4への接近が重要である事を示す新規知見が得られた。
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