研究課題/領域番号 |
21K15367
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤原 悠紀 大阪大学, 連合小児発達学研究科, 助教 (90794925)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 細胞内分解系 / リソソーム / DUMP / オートファジー / 非典型オートファジー / 恒常性 / プロテオリシス / プロテオスタシス |
研究実績の概要 |
生体の恒常性維持において細胞内タンパク質の分解は重要である。採用者(藤原悠紀)はこれまで核酸やタンパク質を細胞内最大の物質分解の場であるリソソームが内腔へと直接運び込み分解する新たな仕組みを発見し、このようなリソソームによる高分子の直接取り込み経路を ”direct-uptake-via/through-membrane-protein” (DUMP) と名付け報告している (Fujiwara et. al., J. of Biochem., 2017, Fujiwara et. al., bioRxiv, 2020他)。DUMPにおいてはリソソーム膜タンパク質SIDT2が基質核酸およびタンパク質の取り込みを担う輸送体と考えられる。本研究課題では、DUMPによるタンパク質分解の制御機構および生理的・病態生理的意義の解明を目的とする。SIDT2は元々線虫の核酸輸送体として知られている因子SID-1の哺乳類オルソログである。SIDT2が核酸を通過させることはできても、本当にタンパク質の取り込みまでを担うことが可能なのか、疑問が残っていた。そこでまず採用者はDUMPのin vitro再構成実験系を用いて検証を行ったところ、リソソームによるタンパク質の直接分解がRNAにより競合的に阻害されることなどがわかった。加えて東京農工大学の川野竜司教授らとの共同研究によりSIDT2が孔を形成し、タンパク質がこの孔を通過することを示唆するシグナルを得つつある。これらからDUMPにおいて基質タンパク質は核酸と同様のメカニズムによりリソソームに取り込まれる可能性が高いことが明らかとなった。採用者はこの他にもDUMPのメカニズムに迫るデータをいくつか得つつある。この他にもは採用者はDUMP/SIDT2の神経変性疾患との関わりを示唆するデータを得、筆頭著者として原著論文を1報発表している(後述)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前述の通り採用者はDUMPのメカニズムに迫るデータを複数得つつあるのに加え、DUMP/SIDT2の神経変性疾患との関わりを示唆するデータを得、筆頭著者として原著論文を1報発表している。この研究において採用者はパーキンソン病 (PD) およびレビー小体型認知症 (DLB) 患者の死後脳でSIDT2のタンパク質量が増加していることを見出した。PDとDLBはいずれもα-synuclein (α-syn) タンパク質の蓄積が見られるレビー小体病であるが、いずれの疾患例においてもSIDT2の増加はレビー小体病理の出現しやすい前帯状皮質で見られ、し難い下前頭回では見られなかった。さらに対照群も含めた全例において前帯状皮質のα-synタンパク質量とSIDT2タンパク質量が良く相関することがわかった。この他にも両疾患患者脳ではリン酸化α-synの凝集物とSIDT2の共局在が見られた。採用者はさらにSIDT2のノックアウトマウスの脳においてα-synタンパク質が蓄積していることも見出した。α-synタンパク質はDUMPの基質となることを採用者は既に見出している事から、DUMP/SIDT2の機能低下が何らかの形でα-synの蓄積やレビー小体病の病態形成に関わることが示唆された。(Fujiwara et. al., Neurochem. Int., 2022) これらに加え採用者はこれまでに得られたDUMPに関する知見について日本病態生理学会で口頭発表を行い、奨励賞を受賞した他、雑誌「生体の科学」に総説を執筆した(in press)。以上のように採用者はDUMPのメカニズムについて新たな知見を複数得、かつ病態生理的意義に関わる研究を初年度から論文化し、この他にもDUMPの研究について学会口演や総説で発信をし、学会奨励賞を受賞している。以上から「当初の計画以上に進展している」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
以上のように採用者はDUMPのメカニズムについて新たな知見を複数得、かつ神経変性疾患との関わりについてDUMP/SIDT2の病態生理的意義に関わりうる研究を初年度から論文化することができた。次年度はまずDUMPのメカニズムに関する研究については当初の予定通り推進してゆく。加えて採用者は最近、発達期の神経細胞においてリソソーム性のタンパク質分解が重要な役割を果たしうることを示唆するデータを得つつある。他のグループの研究からも発達期の神経において、これまで最もよく研究の進んでいるリソソーム性の細胞内分解経路(オートファジー)であるマクロオートファジー以外のオートファジー経路、すなわち非典型オートファジーが重要な役割を担う可能性を示唆するデータが出てきている(Becker et. al., Cell Rep., 2019 他)。今後は当初の計画に加え、発達期の脳におけるDUMP等非典型オートファジーの役割にも着目して研究を進めてゆきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス(COVID-19)の流行のため、参加学会がWeb開催になるなどし、出張費が当初の予定よりも少なくなった。次年度にDUMPのメカニズム解明の研究等のために使用する予定である。
|