研究実績の概要 |
本研究は、RNAメチル化修飾酵素であるMETTL16が赤血球造血において果たす役割を解明することを目的とした。赤芽球特異的METTL16欠損マウスは重度の貧血を呈し、胎生致死につながる。この際、赤芽球においてはDNA損傷のマーカーである微小核が高頻度に観察されることを見出した。またMETTL16を欠損した赤芽球において、I型インターフェロン誘導性遺伝子の発現がみとめられた。そこでDNA損傷がcGAS-STING経路により認識され、I型インターフェロンの産生を促すことで貧血が生じる可能性を検討した。予想に反して、STINGやI型インターフェロン受容体をMETTL16と二重欠損したマウスを作出しても、重度の貧血は改善しないことが明らかとなった。他方、METTL16欠損細胞ではcaspase-3の活性化や、caspaseにより分解を受けるGATA1の発現低下がみとめられたことから、METTL16欠損下でのDNA損傷はcaspaseの活性化を誘導することで赤芽球分化を阻害していることが示唆された(Yoshinaga et al., Nat Commun. 2022)。加えて、今年度は造血幹細胞におけるMETTL16の作用についてさらなる検討を加えた。METTL16を造血幹細胞において欠損すると、新生児期に著明な貧血・造血障害を生じ、生存できないことが明らかになった。これらの結果から、METTL16を介したRNA修飾が生体の造血制御において重要な役割を果たすことが示唆される。本研究成果は、貧血をはじめとする造血異常の病態解明や新規治療法・治療薬の創出にも波及することが期待される。
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