研究課題/領域番号 |
21K15378
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
綿村 直人 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 研究員 (60827351)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | アルツハイマー病 / ネプリライシン / アミロイドβ |
研究実績の概要 |
ネプリライシンは、アルツハイマー病の初期病因因子アミロイドβの主要な責任分解酵素として同定された。これまでに、α-endosulfineが脳内におけるネプリライシンの活性を制御することを見出したが、その分子メカニズムは不明である。本研究では、α-endosulfineのさらに下流の脳内ネプリライシン活性制御メカニズムの解明を目的とし、そのメカニズムに基づくアルツハイマー病予防法の開発を目指す。これまでに、α-endosulfineはKatpチャネルのリガンドとして働くことが報告されている。しかし、どのサブタイプのKatpチャネルがネプリライシンの活性制御に関与しているのかは不明であった。そこで、それぞれのKatpチャネルノックアウトマウスを導入し、組織・生化学的解析を行った結果、スルフォニルウレア受容体1(SUR1)と内向き整流K+チャネル6.2(Kir6.2)の複合体が、ネプリライシンの活性制御に関与していることを明らかにした。次に、SUR1ノックアウトマウスと当研究室で作製したアルツハイマー病モデルマウスを交配し、アミロイド病理について解析を行った。その結果、SUR1ノックアウトマウスの海馬領域において、アミロイドプラークの密度が上昇していることを明らかにした。これはネプリライシンの下方調節によるものであると推察される。また、SUR1/Kir6.2をターゲットとした投薬をアルツハイマーモデルマウスに施し、治療効果が認められるのかについて、組織・生化学・行動学的解析より検討を行った結果、ネプリライシンの活性上昇に伴い、アミロイド病理の減弱及び認知機能の回復を確認した。本研究成果は、Molecular Psychiatry誌で発表された。(Watamura et al., 2021 Mol Psychiatry)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ネプリライシンの活性制御機構の一端として、Katpチャネルのサブタイプ(SUR1/Kir6.2)の特定を行うことができた。また、そのサブタイプのノックアウトマウスとアルツハイマー病モデルマウスを交配することで、SUR1/Kir6.2がアミロイド病理にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることができた。また、解明したメカニズムに基づいて治療を試み、SUR1/Kir6.2に高い親和性を持つジアゾキシドがネプリライシンを介して、アルツハイマー病モデルマウスのアミロイドプラークの密度を低下させ、認知機能を回復させたことを明らかにした。本研究成果はMolecular Psychiatry誌で掲載された。以上より、当初の予定より大幅に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
SUR1/Kir6.2サブタイプのさらに下流のネプリライシン活性制御メカニズムを探索するために、SUR1, Kir6.2 KOマウスの脳組織を用いて、プロテオミクス解析を行う。脳内でネプリライシンはグリア細胞ではなく、主に神経細胞に発現しているため、フローサイトメトリーを用いて、神経細胞を単離する。単離した神経細胞を用いて、プロテオミクス解析を行い、SUR1 KOマウスとKir6.2 KOマウス特異的に増加または減少している因子をもとに、パスウェイ解析を行うことで、NEP活性制御に関わるシグナル伝達系を同定する。 また、脳組織を用いたプロテオミクス解析を行っても、重要な因子またはシグナル伝達系が同定されなかった場合は、各遺伝子欠損マウス由来の条件付け培地を用いたプロテオミクスを行う。α-endosulfine は共培養(大脳皮質海馬神経細胞と大脳基底核神経細胞)の系より、ネプリライシンの活性制御因子として同定された背景があり、ネプリライシンの活性は異種細胞間分子コミュニケーション(介在因子)によって制御されていると想定される。そのため、特定したKatpチャネル下流においても介在因子(Factor X)がネプリライシン活性を制御している可能性がある。Factor Xの候補が複数同定された場合は、そのリコンビナントタンパク質を作製し、共培養系に添加後、ネプリライシン活性を測定することで、さらなる絞り込みを行い、最終的にFactor Xを同定する。
|