研究実績の概要 |
癌の遠隔転移の初期段階では癌細胞が基底膜から遊離する。肺癌は経気道散布による肺内転移を起こしうる癌腫で、経気道散布の状態では、癌細胞は脈管など周囲の細胞から修飾を受けておらず、遠隔転移の初期段階の状態と考えられる。肺癌の中でも浸潤性粘液性腺癌(invasive mucinous adenocarcinoma, IMA)は経気道散布が高い頻度で起こる。そこで、本研究では、IMAの手術検体から採取した凍結検体を用いて、IMAの細胞膜に発現するタンパクを網羅的に解析し、癌細胞-基底膜の接着に関与する接着因子を同定することを目指した。IMAの細胞膜から抽出したタンパクを移植したマウス由来のリンパ球からハイブリドーマを作成し、ハイブリドーマの産生する抗体と、肺腺癌細胞株A549の細胞膜タンパクを用いて免疫沈降を行った。免疫沈降サンプルの質量分析の結果同定されたタンパクの中から、細胞膜に発現し、細胞接着に関連し、かつ細胞遊走(migration)に関与するタンパクおよび、A549での遺伝子発現が他の肺腺癌細胞株(n=19)と比較して高いタンパク、合計8種について、ハイブリドーマの抗原候補として解析を行った。8種の抗原候補タンパクに対する市販抗体を用いて、(1) 肺腺癌細胞株を用いたウエスタンブロット、(2) 肺腺癌組織を用いた免疫染色を行ったところ、(1) A549でタンパクの発現が観察され、(2) IMAを含む肺腺癌の細胞膜に陽性像を呈するタンパクとしてMRP2(ABCC2)が同定された。ただしハイブリドーマ由来の精製抗体とMRP2の市販抗体、それぞれのウエスタンブロットの結果と免疫染色の結果は完全には一致しなかった。
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