研究課題
脈管異常は、脈管奇形と脈管系腫瘍を含む疾患概念である。脈管異常の多くは良性であるものの、機能面および整容面において患者のQOLを著しく低下させ、しばしば難治性である。近年、リンパ管奇形の病態にPI3K (phosphatidylinositol-3 kinase)/AKT/mTOR (mammalian target of rapamycin)経路が重要であることが解明され、この経路を標的としたmTOR阻害剤であるシロリムスが難治性リンパ管異常に対して高い効果を示すことが報告されている。シロリムスは新規的かつ安全性の高い治療法として注目されており、本邦では世界に先駆けて、薬事承認を目指した第Ⅲ相試験が2019年に終了している(2021年に薬事承認されている)。リンパ管奇形は病理診断により確定されるが、他の脈管異常との鑑別がしばしば困難である。適切に承認薬を使用するためには、脈管異常の正確な分類方法を確立することが急務である。本研究では、ヒト病理検体を用いた免疫組織化学的染色手法による病理診断マーカーの探索から、リンパ管奇形の病理診断基準を確立することを目的としている。現在病理診断に広く使用されている脈管マーカー(CD31)、リンパ管マーカー(D2-40、Prox1)、血管マーカー(CD34)の抗体を用いた免疫組織化学的染色結果を基準として、リンパ管奇形(15症例)と静脈奇形(28症例)を集積し、内皮細胞での染色結果を数値化して比較検討を行った。その結果、CD31は両者ともに高発現しており、有意差は認められなかった。D2-40、Prox-1はリンパ管奇形で有意に高い発現が認められ、CD34は静脈奇形で有意に高い発現を認めた。しかし、D2-40、Prox-1、CD34発現は症例によりばらつきがあり、これらの併用、あるいは新たな病理診断マーカーの探索が望ましいと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
現在病理診断に広く使用されているリンパ管マーカー(D2-40、Prox1)と血管マーカー(CD34)、脈管マーカー(CD31)の抗体を用いた免疫組織化学的染色結果を基準として診断された、リンパ管奇形と静脈奇形症例の集積を行った。収集した症例に関して、他の様々な抗体を用いた免疫組織化学的染色も行っており、リンパ管奇形の診断に有用な病理診断マーカーを検討している。
近年、各脈管異常症において固有の遺伝子変異があることが報告されてきている。リンパ管奇形の多くでPI3KをコードするPIK3CA (phosphatidylinositol-4,5-bisphosphate 3-kinase catalytic subunit alpha)変異が、静脈奇形の約半数にTEK変異が同定される。集積したリンパ管奇形と静脈奇形の病理検体(ホルマリン固定パラフィン検体)と、カスタムパネルを用いた次世代シークエンス解析により、各症例の遺伝子変異解析を行っていく予定である。病理組織所見、免疫組織化学的染色結果、遺伝子変異を比較し、病理診断マーカーを含めた病理診断方法の確立を目指す。
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