脈管異常は、脈管奇形と脈管系腫瘍を含む疾患概念である。その多くは良性であるが、機能面および整容面において患者のQOLを著しく低下させる。近年、リンパ管奇形(LM)の病態形成には、PIK3CA 遺伝子の変異に起因するPI3K /AKT/mTOR経路の活性化が関与していることが明らかとなった。この経路を標的としたmTOR阻害剤であるシロリムスが難治性リンパ管異常に対して高い効果を示すことが報告され、本邦では世界に先駆けて、薬事承認を目指した第Ⅲ相試験が2019年に終了した(2021年薬事承認)。LMは病理診断により確定されるが、他の脈管異常との鑑別がしばしば困難である。適切に承認薬を使用するためには、脈管異常の正確な分類方法を確立することが急務である。本研究は、ヒトFFPE病理検体を用いて、LMの病理診断基準を確立することを目的とする。 LM17症例、リンパ管静脈奇形(LVM)9症例、静脈奇形(VM)34症例を用いた免疫組織化学的染色の結果、Prox1はLMおよびLVMの全症例で高発現しており、VMと比較して有意に発現が高かった。同様に、D2-40はLMで有意に発現が高く、VMではほとんど発現を認めなかった。一方、CD34は静脈奇形で最も発現が高く、LVM、LMの順で発現が低かった。 またFFPE病理検体よりDNAを抽出し、PIK3CA遺伝子の全エキソンを対象としたカスタムパネルを用いた次世代シークエンス解析を行った。PIK3CA変異はLMの13/24症例(54.2%)で検出されたが、VMでは4/28例(14.3%)しか検出されなかった。変異部位はp.E542K、p.E545K、p.H1047Rのhot-spot変異が多く検出された。 以上より、FFPE病理検体を用いた免疫組織化学的染色と遺伝子変異解析を組み合わせることにより、LMと他の類似する脈管異常を鑑別できることが示唆された。
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