研究実績の概要 |
肝細胞癌が腫瘍栓形成性の脈管侵襲を来す機序を解明するため,まず,TCGA databaseを用いて,腫瘍栓形成性の脈管侵襲と関連が深いと考えられるmacrovascular invasionを示す肝細胞癌が示す遺伝子異常,分子異常に関して検討を行った.遺伝子変異の特徴として,RASAL2, ITGA10, MCL1, GJA5といった,細胞増殖や細胞接着に関わる遺伝子の変異の頻度が高いのに対し,TP53, CTNNB1といった多くの肝細胞癌において認められる遺伝子変異の頻度が低いという事がわかった.また,同じく腫瘍栓形成を来すことの多い腎細胞癌と共通したmRNAの高発現が見られる分子56ヶを既に同定しており,それらのうち,macrovascular invasion群において,EPOの発現が有意に高く, GLYAT, GLYAL1, HAO2の発現が有意に低いことが新たに判明した.これらの分子も今後の解析に加える予定である. また,当院における2001年から2020年までの肝細胞癌手術検体について検索を行い,551症例738結節の肝細胞癌を同定し,背景肝疾患との関連や臨床病理学的な因子との関連について検討を行った.このうち571結節を臨床的・組織学的に原発腫瘍と判断し,原発腫瘍に関しては,WHO分類第5版を参考に組織学的亜分類についても検討を行った.この検討において,当院における手術症例においても,近年では非ウイルス性肝疾患由来の発癌が増加していることや,非硬変肝由来の発癌が増加し,腫瘍のサイズも増大していることが判明した.組織亜型における検討では,EMTを起こさず直接周囲の血管腔に進展するVETCパターンとの関連が深い,macrotrabecular massive typeの予後が悪い傾向にあることがわかった.今後,脈管侵襲等についても詳細な検討を加え検討する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
①2022-2024年度:上記の新たに同定された分子を含めて,肝細胞癌切除検体の凍結検体を用いた,mRNA発現解析による腫瘍栓形成性脈管侵襲に関連する候補分子の絞り混みを行う.すでに約150例ほどのmRNAを抽出しているが,さらに症例を追加して検討する予定である.また,ホルマリンパラフィン包埋切片を用いて,候補分子の免疫染色やin situ hybridizationによる,局在発現を含めた分子発現の検討を随時並行して行う予定である. ②2023-2024年度:①のmRNAの発現解析や免疫染色での発現解析から絞り込まれた候補分子の発現と,病理学的な脈管侵襲,肝内転移の程度との関係や,腫瘍マーカー,画像所見,術後再発・生存などの臨床情報との相関解析を行うことにより,腫瘍栓形成性脈管侵襲に関わる分子の発現について検討を行い,更なる絞り混みを行う.脈管侵襲については,vp1, vv1に相当する病変を詳細に検討し,適切な細分化についても検討する予定である. ③2023-2024年度:①の検討にて絞りこまれた候補分子を用いて,肝細胞癌細胞株と類洞血管内皮細胞の培養細胞を用いた共培養や,肝細胞癌細胞株を用いて候補分子のknock downやoverexpressionを行い,qRT-PCRによるmRNAの発現解析や,invasion assay, migration assayなど,in vitroでの機能解析を行う予定である. ④2022-2024年度:TCGA等の公開データベース等を用いて,候補分子の腎細胞癌等の他癌腫での発現についても検討を行う予定である. ⑤2022-2024年度:得られた知見を,適宜国内外の学会で発表し,随時原著論文として迅速に報告する予定である.
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