研究実績の概要 |
この研究では、人工知能を活用した多数例の病理組織学的な形態解析を通じて、不均一な細胞集団である浸潤性膵管癌における新規形態学的分類法の構築と、それぞれの形態分類に対応する特異的な発現変化を示す遺伝子群を同定する。そして、推定される遺伝子変化を組織形態学へ効果的に翻訳し、腫瘍全体の不均一性の可視化を実現するとともに、予後を予測するモデルを確立する。 令和3年度は浸潤性膵管癌674症例からデジタル化した組織画像を基に癌を含む小画像(パッチ画像)を100万枚余り収集し、特徴量の抽出から予後予測モデルを確立した。 令和4年度は、上記で収集した組織画像を基に、ニューラルネットワークを介したクラスタリングにより、不均一な癌画像を類似画像よりなる16クラスタに分解し、それぞれのクラスタの出現頻度を同定した。さらに予後に有意な影響を与えるクラスタを3つ(A, B, C)同定した。一定数以上存在すると膵癌術後再発が非常に高率となる、あるいは反対にその成分が存在しなければ5年無再発率50%以上となるような症例抽出に成功した。 令和5年度は、上記クラスタA,B,Cについて、FFPE薄切切片24サンプルから組織の顕微鏡下選択的ダイセクションを実施し、全RNA抽出を行った後、mRNAパネル定量(nCounter)を実施し、クラスタ間の発現差が大きい遺伝子を5つ同定した。このうち遺伝子Xについては、予後良好クラスタAでは高発現しているのに対し、予後不良クラスタB,Cでは発現が有意に低く、予後予測のバイオマーカーとして活用できる可能性が見いだされた。
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