研究課題/領域番号 |
21K15397
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
岩渕 英里奈 東北大学, 医学系研究科, 助教 (70837278)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 乳癌 / 亜鉛トランスポーター |
研究実績の概要 |
本邦における乳癌の罹患率および死亡率は年々増加しており,乳癌の生物学的特徴を理解し,個々の乳癌に適した治療を行い,克服することが重要である. エクソソームは癌細胞や間質の正常細胞から分泌され,癌の進展に関わることが報告されており,個別化医療実施のための解析対象として注目されている.本研究では,エクソソーム分泌の制御機構に関わる因子として微量金属元素・亜鉛に着目して進めている.先ずは亜鉛の細胞内外への輸送を担うトランスポーターの機能についての解析を行った.当該年度はヒト乳癌組織を用いて,亜鉛トランスポーターの免疫組織化学を実施した.細胞外から細胞内へと亜鉛を取り込むトランスポーター2種と細胞内から細胞内小器官への亜鉛の取り込みに関わるトランスポーター2種について検討した.また,近接ライゲーションアッセイを用いて,乳癌組織上におけるダイマーの形成を検討した.さらに,乳癌培養細胞を用いてこれらのトランスポーターの発現を変化させ,亜鉛存在下での乳癌細胞に及ぼす影響を検討した.その結果,ヒト乳癌組織を用いた検討では,細胞内から細胞内小器官への亜鉛の取り込みに関わるトランスポーターの発現と乳癌の悪性度の指標となるいくつかの項目が逆相関を示した.また,近接ライゲーションアッセイの結果,細胞内から細胞内小器官への亜鉛の取り込みに関わるトランスポーター2種にて,ヘテロダイマーを形成することを確認した.乳癌培養細胞を用いた検討においては,亜鉛の存在下で乳癌細胞の遊走能の抑制が認められた.一方で,亜鉛存在下では亜鉛トランスポーターの発現を低下させたところ,乳癌細胞の遊走能の促進と上皮間葉転換の促進を示す結果も得られた.現在,これらの機序を明らかにするため,制御を受けるシグナル伝達経路の特定を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は4種の亜鉛トランスポーターについて乳癌組織標本を用いた検討を実施し,その発現意義を明らかにした.一方で,ダイマーパターン解析については検出に成功してはいるものの対象症例数が十分でないことから,より多くの症例で実施する予定である.また現在、他の亜鉛トランスポーターに対する抗体についても選定および染色条件の検討を進めている.乳癌培養細胞を用いた検討においても,評価中の亜鉛トランスポーターが癌細胞の遊走能および浸潤能の抑制への関与を示唆する結果も得られており,概ね順調に成果が上がっている.
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通りの研究を継続し,対象症例や対象となる亜鉛トランスポーターの種類を増やして進めていく.乳癌培養細胞の検討では,評価中の亜鉛トランスポーターが癌細胞の遊走能および浸潤能の抑制への関与を示唆する結果が得られていることから,現在,制御を受けるシグナル伝達経路を網羅的に解析しているところである.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で現地参加予定であった学会が全てオンライン参加となり,旅費として計上する予定であった経費を使用しなかったため,次年度使用額が生じた.現在,亜鉛トランスポーターが乳癌細胞の上皮間葉転換に及ぼす影響の機序の解析を進めており,次年度に使用する予定であった経費と合わせて,より広範な解析実施のための消耗品の購入に充てる予定である.
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