研究課題/領域番号 |
21K15421
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
池田 直輝 東京薬科大学, 生命科学部, 嘱託助教 (90825473)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 制御性単球 / 炎症抑制 / 組織修復 / 多次元フローサイトメトリー |
研究実績の概要 |
組織傷害部位に浸潤した単球由来マクロファージは、炎症期には炎症を惹起する一方で、修復期には炎症抑制および組織修復に寄与する。従来、この修復期のマクロファージは、炎症期に浸潤した単球由来マクロファージが、局所の状況変化に応じて形質を変えたものと考えられてきた。しかし、最近申請者は、この従来の説に反して、組織修復型マクロファージの前駆細胞(制御性単球)が組織傷害の修復期に骨髄で産生されることを明らかにし、異なる単球サブセットを介した新たな組織修復機構の存在を世界に先駆けて示した(Ikeda, et al. Science Immunol, 2018)。本研究は、申請者が同定した制御性単球の分化・作用機序を明らかにすることで、将来的に本単球を標的とした新規治療法の開発につなげることを目的として実施している。 本年度は、制御性単球の前駆細胞および分化誘導因子、さらにヒト制御性単球の解析を実施した。前駆細胞の解析において、RNA-seq解析により網羅的な転写因子の発現解析を実施し、遺伝子発現パターンおよび分化制御に関与する可能性のある転写因子を同定した。制御性単球の分化誘導因子の解析は、制御性単球が見られるLPS投与時に増加するサイトカインを標的として実施し、タンパク質投与および中和抗体の投与により分化誘導因子を同定した。さらに、前年度同定したヒト制御性単球の機能や炎症時における動態を解析し、ヒト制御性単球もマウス制御性単球と類似した動態を示すことを明らかにした。これまでの研究成果をCell Reports (Ikeda, et al. 2023)に報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
制御性単球分化経路の解明 制御性単球分化を制御する転写因子を解析するため、前年度同定した制御性単球前駆細胞を含む骨髄前駆細胞のRNA-seq解析を実施した。その結果、制御性単球前駆細胞は従来型単球前駆細胞と好中球前駆細胞の中間的な転写因子発現を示すことが明らかになった。さらに、好中球特異的な転写因子を欠損すると、定常時から制御性単球が劇的に増加することが明らかになった。この研究は、制御性単球の分化を制御する可能性のある転写因子同定できたことから、当初の想定よりも順調に進捗している。 制御性単球分化誘導因子の解明 前年度同定した分化誘導因子に対する中和抗体を作製し、LPS投与時に増加する制御性単球の分化抑制作用を評価した。その結果、制御性単球の分化は中和抗体により抑制された。この研究は、当初の想定通りに進捗している。一方で、中和抗体により制御性単球は、完全に抑制されなかったことから、さらに別の分化誘導因子が存在する可能性が明らかになってきた。 ヒト制御性単球の探索 前年度同定したヒト制御性単球のT細胞抑制機構を解析したところ、細胞間接着依存的であること、過酸化水素依存的であることが明らかになった。また、炎症時における制御性単球の動態を解析するため、肝臓がん患者の肝動脈化学塞栓療法(TACE)実施前後の末梢血細胞を解析した。TACEにより炎症が誘導されることが明らかになっており、その炎症に伴い制御性単球の割合が有意に増加した。この研究は、当初の想定よりも順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、本単球を標的とした新規治療法の開発につなげることを目的として、マウス制御性単球の分化機構および分化誘導因子、さらにヒト制御性単球の動態および機能解析を推進する。 制御性単球分化機構の解析では、RNA-seq解析により制御性単球分化を制御する可能性のある転写因子を複数見出している。今後は、前駆細胞の候補転写因子をレトロウイルスにより過剰発現あるいはノックダウンした際の制御性単球分化をin vitroおよびin vivo移植実験により評価する。 制御性単球は炎症性腸疾患やがん、敗血症などさまざまな疾患で見られる。これらの疾患に対し、同定した分化誘導因子を投与あるいは中和抗体により阻害した際の制御性単球分化および病態に対する作用を検討する。上述の解析により、制御性単球分化に影響が見られない疾患が見つかった場合は、別の分化誘導因子が存在する可能性があるため、その因子を探索する。 ヒト制御性単球の解析では、T細胞抑制におけるヒト制御性単球の機能分子を解析する。具体的には、ヒト制御性単球に対する抗体を制御性単球-T細胞培養系に添加し、T細胞抑制を解除するものを探索する。そのような抗体が見つかった場合は、免疫沈降法などにより抗体が結合するタンパク質を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症による影響で納期が遅れ、一部物品費を当該年度に使用できなかった。研究は概ね順調に進行しているため、次年度に当初の予定通りに使用する。
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