研究実績の概要 |
本研究では, 申請者が独自に考案したS100タンパク質の遺伝子組換えペプチドが潰瘍性大腸炎(UC)モデルラットの病態, およびマクロファージ(MΦ)の免疫機能にどのような影響を与えるのかを明らかにする。その結果を踏まえ, 炎症の緩和あるいは増悪を規定する本タンパク質の活性中心の解明と, 組換えペプチドを利用した活性型MΦの制御手法の考案を目的とする。 S100A8組換えペプチドの一種であるrMIKO-1の投与がラットUCの病態を緩和することは, 2021年度末に報告済みである。加えて2022年度は, S100A8タンパク質そのものをUCモデルラットへ投与することを試み, 上記の成果と比較することで組換えペプチドrMIKO-1の優位性を検証した。S100A8タンパク質自体の投与でもUCの病態は緩和するものの, rMIKO-1の投与と比較して薬理効果に乏しい結果が得られた。また, rMIKO-1およびS100A8を培養MΦに添加刺激した際の免疫反応を精査した。rMIKO-1添加刺激は, S100A8に比して, 有意なマクロファージの免疫抑制効果を示した。 さらに, rMIKO-1はラットのS100A8タンパク質の組換え体であるため, ヒトへの適応が困難と思われた。そこで, 今後の臨床応用を想定し, ヒトのS100A8タンパク質の組換えペプチド(hMIKO-1)の作製に着手した。hMIKO-1を発現する大腸菌の作製と, そこからのhMIKO-1の精製には成功しており, これを活用した今後の成果が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において, 組換えペプチドの作製と精製が順調に推移し, 計画の初年度(2021年度)序盤に大量の組換えペプチドrMIKO-1を精製, 確保できた。そのため, 予定より早くrMIKO-1を用いた実験に取り掛かることができた。実験そのものの成果について, 培養MΦへの添加刺激実験に関する成果はやや遅れているものの, UCモデルラットへの投与実験では良好な成果が得られ, 学術論文の形式で発表することができた(Okada K et al., Inflammation 45(1): 180-195, 2022)。当初, 培養MΦに関しては2022年度中に結果報告を予定しており, 動物実験に関しては2023年度中の結果報告を予定していたが, その順番が前後することとなった。以上の進捗状況を考慮し, 研究が「遅れている」ことはなく, 「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は既存の抗炎症性タンパク質とrMIKO-1との比較を通じて, rMIKO-1における炎症抑制効果の優位性を検証する予定である。特に, 現在, S100A8タンパク質とrMIKO-1との比較実験を進めており, rMIKO-1の優位性を示す複数のデータが得られている。培養MΦへのrMIKO-1添加刺激実験の結果と併せて引き続き検証を重ね, 本ペプチドの新たなUC治療薬としての可能性を2023年度中に報告する予定である。また, 新たに開発したhMIKO-1の, UC治療薬としての有用性に関しても引き続き精査する予定である。
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