研究実績の概要 |
本研究では, 申請者が独自に考案したS100タンパク質の遺伝子組換えペプチドが潰瘍性腸炎(UC)モデルラットの病態, およびマクロファージ(MΦ)の免疫機能にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的とした。 最終年度は, ラットのS100A8タンパク質と同じ一次構造を有する組換えペプチド(rr-S100A8)をUCモデルラットに投与し, その薬理効果と機能的役割を精査した。rr-S100A8を投与していないUCモデルラット群と比較し, rr-S100A8を毎日投与したラット群では, UCの臨床的重症度スコア(DAIスコア)と組織学的重症度スコア(HISスコア)がいずれも低値に留まった。また, rr-S100A8投与群のUCモデルラットでは, 大腸組織におけるS100A9と, 炎症性サイトカインの1種であるtumor necrosis factor-α(TNF-α)の産生が抑制されていた。また, rr-S100A8で刺激したラット由来のMΦでは, 細胞内S100A8の発現がオートクライン的に活性化され, 逆にS100A9の発現は抑制された。リポポリサッカライド(LPS)で刺激し, 活性化したMΦでは, 細胞内S100A9やTNF-αの発現上昇を認めた。また, 抗S100A8抗体で処理し, 細胞内S100A8を阻害したMΦでは, S100A9とTNF-αの活性が非常に高まる傾向を認めた。以上の結果から、UCの炎症増悪期におけるS100A8は、LPSとS100A9が関与するMΦ内シグナル伝達経路を抑制することで、特にTNF-αの産生と分泌を制御する、抗炎症性のタンパク質として働くと考えられた。 研究期間全体の実験結果を総括すると, S100A8タンパク質を基調として独自に作製した組換えペプチドは, UCの炎症を抑制的に制御する可能性が高いと考えられた。
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