脳梗塞によって形成された壊死組織内には虚血誘導性幹細胞(ischemia-induced multipotent stem cells: iSCs)が出現する。壊死組織内には特徴的なタンパク質発現を示すミクログリアが出現するが、これらはiSCsが分化したミクログリア(iSCs derived microglia: iSMG)であると考えられる。壊死組織内では血管内皮細胞の増殖や血管体積の増加が生じる。iSMGは血管発達関連因子を豊富に発現しているため、壊死組織内の血管変化に関与していると予想した。本研究では壊死組織内の血管変化におけるiSMGの関与と、血管変化が生じることの意義を特に壊死組織成分の排出に着目して検証した。 ミクログリア除去作用のあるCSF1R阻害剤を投与することでiSMGの除去にも成功した。これを用いてiSMGを除去すると壊死組織内で生じていた血管内皮細胞の増殖や血管体積の増加が有意に抑制された。さらに、通常は経時的に壊死組織が頭蓋骨内から消失するが、iSMGを除去することで壊死組織の消失が抑制された。CSFR1阻害剤を投与したマウスの壊死組織にiSMGを移植することでレスキューを試みたが、移植による侵襲が大きく評価ができなかった。しかし、iSMGが豊富に発現する血管発達関連因子の1つであるVEGFの受容体を薬理学的に阻害すると壊死組織内の血管変化が抑制され、さらに経時的な壊死組織の消失も抑制された。また、壊死組織内に蛍光標識デキストランを注入すると、数時間後には蛍光標識デキストランが壊死組織内の血管壁、および血管内腔に移行していた。これらのことから、iSMGによって体積を増した壊死組織内の血管が壊死組織成分の排出ルートとなり、それによって壊死組織が頭蓋骨内から消失している可能性が示された。
|