研究課題
申請者は、これまでに、PP6ホスファターゼ(PP6)が変異型KRASの腫瘍形成能を抑える機能をもつことを、マウス皮膚・頭頸部発がん実験で明らかにしてきた。難治がんである膵臓がん(膵管腺がん/PDAC)は90%以上がKRAS変異をもつ。もし、PP6が膵がんにおいても、変異型KRAS依存性の腫瘍形成を抑える機能があれば、PP6を利用した膵がん治療法開発の可能性があると考え、本研究を企画した。膵細胞特異的に、二重変異(KRAS(G12D)変異とTrp53欠損)を導入したマウスにおいて、PP6遺伝子(Ppp6c)を欠損させると150日以内に全てのマウスにおいて、膵臓腫瘍を発症し衰弱して死亡したが、コントロールでは、150日以内の死亡発生は認められなかった。変異誘発後80日目における腫瘍発生に関して検討した。Ppp6c欠損マウスの膵臓では、コントロールと比較して、腫瘍の数と大きさ、前癌病変の数が有意に増加した。Ppp6c欠損マウスの膵臓で認められた腫瘍は、病理学的にはEMTを起こしたPDACと診断され、6例中3例で周辺組織への浸潤を認めた。また、体重減少、サルコペニア、脂肪組織の消失、血清中IL-6およびTNFの上昇、がん特有の解糖系代謝が亢進し、ヒトの膵がんで認められる悪液質に類似した症状を示した。本研究により(1)膵がんの新規抑制遺伝子としてPP6が同定された。(2)悪液質を呈するヒトの膵癌の発生のモデルとなるマウスの作製となった (3)本マウスを用いて、新規の治療法のスクリーニングをすることが可能となった。(4)2重変異(KRAS変異+p53欠損)を膵細胞の悪性化には、NFkB経路の活性化とERKの活性化が関与すること。を明らかにした。(5) NFkBやERKの阻害剤やPP6の活性化剤が、新しい治療法になる可能性を提示した。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Cancer Sci.
巻: 113(5) ページ: 1613-1624
10.1111/cas.15315.