研究課題
結核菌はヒトの肺に感染し、肉芽腫を形成する。肉芽腫は結核菌を取り囲むマクロファージとT細胞の集積体で、その内部は低酸素環境である。そして、結核菌はエネルギー代謝系を再構成することで、低酸素環境下への適応を可能とする。本研究の対象とする、ジヒドロオロト酸脱水素酵素 (DHODH) は、酸化型キノンとジヒドロオロト酸を基質とし、還元型キノンとオロト酸への反応を触媒することから、ATP合成における電子伝達と、核酸代謝におけるピリミジン生合成に役割を果たす。本年度は、Mycobacterium smegmatis (M.smegmatis) において、CRISPR干渉による遺伝子ノックダウンを用いて、DHODHの細胞分裂に与える影響を評価した。その結果、DHODHをノックダウンすることにより、M. smegmatis の増殖が止まることが分かった。そして、DHODHをノックダウン後のM. smegmatisの細胞生存アッセイを行ったところ、細胞は生存していることが分かった。また、ピリミジンの前駆体であるウリジンを培地に添加することで、細胞増殖が回復した。つまり、DHODHの発現量を抑制することで、細胞増殖を抑えることはできるが、細胞が死ぬことはないことが示唆された。さらに、M. smegmatis は細胞外部のウリジンを利用することで、ピリミジン生合成系の破綻を補うことができると示唆された。また、DHODHの結晶構造を明らかにするために、大腸菌を用いた組換えDHODHの発現系の改善を行った。組換えDHODHは大腸菌内では、封入体を作ることから、可溶性タグであるGSTをもつDHODHの発現を検討した。その結果、GSTタグをもつDHODHは活性を保持した状態で膜画分に局在することが分かった。今後は、精製条件の検討を行い、純度の高い精製標品を得ることを目標に研究を進める。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた、組換えDHODHタンパク質の発現、精製と、遺伝子ノックダウンによる表現型の解析を進めた。DHODHは生存に必須であることから、創薬における標的分子の有望な候補と考えられていたが、期待する結果を得ることができなかった。今後は、当初から予定している組換えDHODHの結晶構造解析を進めていくと同時に、他の代謝系の酵素についても検討を進めていく。
創薬における標的分子としての可能性を評価するために、ピリミジン生合成系遺伝子のノックダウン実験を行った。その結果、ピリミジン生合成系を標的とした場合には、静菌的に作用することが明らかとなった。つまり、創薬においては有望な標的ではないことが示唆される。したがって、今後の研究では、組換えDHODHの結晶構造解析を進めていくと同時に、他の代謝系についても着目して研究を進めていく。
新型コロナウイルス感染症の影響により、年度末までに入手が困難なプラスチック製品、または実験試薬があり、次年度使用額が生じた。本予算については、計画通りに消耗品に使用する。
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