本研究では、潜在性結核感染症(LTBI)から活動性結核への進展に寄与する菌側の分子機構を解明するため、これと密接に関わる現象と考えられる細菌のVBNC(Viable But Non- Culturable)状態に注目し、VBNC結核菌の再活性化機構の解明を試みた。VBNCとは外的ストレス等の要因により増殖を止めた細菌が、いわば「鳴りを潜めている」状態である。VBNC菌は適切な再活性化刺激によって増殖を再開することが知られているが、結核菌のVBNC再活性化刺激およびその機構には不明な部分が多い。 研究代表者は、VBNC結核菌集団が不均一で、再活性化刺激に対する応答性が異なる小集団の存在を示唆する知見を得ている。これらを識別・分離するために、抗酸菌の伸長時に細胞末端部に局在して伸長複合体を形成するタンパク質Wag31に、光変換タンパク質を連結したWag31-Dendra2発現BCG株の作製を試みた。併せて、蛍光アミノ酸標識による再活性化可能菌と不能菌の識別に成功した。しかし、蛍光アミノ酸標識の寿命の問題で、長期間の追跡は困難であった。 並行して、電子伝達系阻害薬による迅速かつ簡便な結核菌VBNC移行系およびウシ血清アルブミン(BSA)刺激による再活性化実験系とドッキングシミュレーションを用いて、VBNC結核菌の再活性化阻害因子の探索を行った。その結果、結核菌Ser/ThrキナーゼPkn阻害薬が、VBNC結核菌の再活性化を強く抑制することが示された。一方、Dibutyryl-cAMPによるPknの活性化はVBNC結核菌の再活性化を促進し得なかった。 また、結核菌Pkn阻害活性を有することが知られている抗悪性腫瘍薬Mitoxantroneが、VBNC結核菌に対して殺菌的に作用することが示された。
|