近年、次々と新しい薬剤耐性病原菌が発生しており、その脅威に備えることは、世界保健衛生上の最重要課題であることから、新規なメカニズムによる抗生物質の開発が強く求められている。この背景のなか、エネルギー産生機構・呼吸鎖は、新たな創薬標的として近年注目を集めるようになった。本研究の研究代表者は、ミトコンドリア内膜の呼吸鎖で働くヘムタンパク質シトクロムc酸化酵素(CcO)の新規なアロステリック阻害剤を発見すると共に、CcOと阻害剤との複合体構造を決定することで、新規なアロステリック活性調節部位を発見した。続いて、この活性調節部位を形成するヘム周囲の立体配座がアミノ酸配列相同性が低い他のヘムタンパク質においても見出される事実を発見し、“ヘムタンパク質に普遍的なアロステリック活性調節機構が存在する” という仮説から本研究立案に至った。 本研究では、自作のカスタム化合物ライブラリを用いて、複数のタンパク質において、“ヘムタンパク質に普遍的なアロステリック活性調節部位” に結合する化合物をハイスループットスクリーニングに依存しない合理的な発見を目指す。ヘムタンパク質は生体内の様々な反応に関わるため、創薬標的として期待が高いことから、本研究の成果は、学術的のみならず、医療や産業への展開が期待できる。得られた阻害剤を用いて菌の増殖抑制効果を検討することで、新規阻害剤の抗菌剤としての実用的な基本コンセプトの実証を目指す。 これまでに種々のヘムタンパク質阻害剤を発見したが、大腸菌酵素では複合体構造の決定と阻害メカニズムの解明を行うとともに、抗菌薬となり得る菌の増殖を抑制する化合物を取得した。さらに、髄膜炎菌/淋菌酵素でも特異的な阻害剤を発見し、これが薬剤耐性淋菌に対して殺菌作用を持つことを示した。以上の結果は申請者の仮説を実証する内容であり、今後は当該コンセプトに基づく抗菌薬開発の実用化を目指したい。
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