本研究では、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)、A型インフルエンザウイルス(IAV)、ノロウイルスの3種の病原ウイルスに対する感染制御対策への応用を目指し、これらウイルスに対し不活化活性を有する新規薬用植物由来エキス、及びその活性中心化合物の探索、またそれらエキス及び化合物の作用機序の解明を目的とした研究を実施した。 最終年度である今年度は、本研究で見出したユキノシタ(Saxifraga)属植物由来エキス、およびその活性中心化合物である縮合型タンニンのウイルス不活化活および細胞傷害性の程度を、既存のウイルス不活化剤として実社会で利用されているエタノールおよび次亜塩素酸ナトリウム水溶液と比較した。SARS-CoV-2、IAV、またヒトのノロウイルスの代替ウイルスである猫カリシウイルス及びマウスノロウイルスの4種のウイルスを対象としたウイルス不活化活性評価試験では、実使用において妥当と考えられる濃度においては当該エキスおよび縮合型タンニンに比較して、エタノール及び次亜塩素酸ナトリウム水溶液の活性が勝っていた。一方、in vitroにおける細胞傷害性評価試験においては、当該エキス及び縮合型タンニンは、エタノール及び次亜塩素酸ナトリウム水溶液と比較して低い細胞傷害活性を示した。以上の知見から、当該エキスや縮合型タンニンは、皮膚傷害性等の問題により既存のウイルス不活化剤が使用できない条件下において代替として使用できる可能性が示された。 また上記と平行し、Saxifraga属植物由来エキス中に含まれる、縮合型タンニン以外のウイルス不活化活性を有する化合物の探索も進めた。解析の結果、新たに複数の新規化合物を見出した。それら化合物の活性は縮合型タンニンの活性よりも弱いものではあったが、複数の化合物の有する活性の総和としてSaxifraga属植物由来エキスの強力なウイルス不活化活性が発揮される可能性が示唆された。本研究成果は現在学術論文として投稿中である。
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