Epstein-Barr virus (EBV) は成人の90%以上が感染し、生涯潜伏する、ありふれたヒトヘルペスウイルスである。時に感染細胞が腫瘍性に増殖し、様々なEBV関連がんを発症させる。EBV関連がんの新規発生者数は全世界で年20万人に及び、依然として死者数も多い。また、本邦を含む東アジアで発症率が多い慢性活動性EBV感染症は造血幹細胞移植が唯一寛解の可能性がある治療法であるが、移植関連死や医原性の日和見感染症が多いといった問題もある。したがって、造血幹細胞移植に代わる新たな治療法の開発が課題であるが、EBV関連がんの発症原因や発症機構は不明な点が多いため、根治を期待できる有効な抗ウイルス薬は未だ存在しない。 本研究課題ではEBVのDNAセンサーを介する自然免疫応答の回避の分子機構の解明を目指してきた。初年度はNanoLucスプリットルシフェラーゼを用いて、cGAS/STING/DDX41といったDNAセンサー発現系と、EBV遺伝子ライブラリを組み合わせたタンパク質間相互作用の大規模スクリーニングを実施した。昨年度はDNAセンサーと相互作用するウイルス因子の候補についてin vitro、培養細胞系により評価し、候補分子がDNAセンサーに共通する自然免疫関連分子STINGと相互作用することで自然免疫応答を低下させることを明らかにした。さらに当該年度は本分子がSTING多量体化の過程を抑えることを見出し、細胞内局在の解析から膜貫通型タンパク質であるSTINGが膜小胞の内腔側から制御される可能性を示唆された。さらにインフルエンザウイルス、SARSCoV-2を含むエンベロープウイルスとの共通性が示唆された。今後はエンベロープウイルスの免疫制御機序を解明することによって広域抗ウイルス薬の開発につなげる知見を提供し、新興感染症のニーズに応えることを目指す。
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