研究課題/領域番号 |
21K15456
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
和田 雄治 川崎医科大学, 医学部, 助教 (60825248)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ウイルス学 / HTLV-1関連疾患 |
研究実績の概要 |
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)はRNA腫瘍ウイルスであり、両下肢麻痺や排尿排便障害を主症状とするHTLV-1関連脊髄症(HAM)を引き起こす。HAMは、HTLV-1感染細胞が脊髄内に侵入して慢性炎症を誘起する事により発症すると考えられているが、その詳細な機序は明らかとされていない。HAMの病態形成機序を解明する事により、早期診断マーカーの発見や創薬標的の探索等の研究活動の発展に寄与する事が期待され、延いてはHAM患者のQuality of Lifeの改善に貢献する事が可能となる。 本研究室のこれまでの研究活動より、HTLV-1 Taxタンパク質依存的に中枢神経性の下肢麻痺を自然発症するHAMモデルマウス(2D2/Tax-Tg)を作出し、下肢麻痺発症群で血清中インターロイキン17(IL-17)発現量が有意に減少する事を見出した。上記の知見を基に、HAM病態形成に果たすIL-17及びIL-17受容体(IL-17R)の役割を解明する事を志していた。 2022年度までの研究活動により、HAMモデルマウスの有用性を再検討してきたが、HTLV-1 Taxタンパク質依存的な中枢神経障害は再現性に乏しく、研究計画の大幅な変更を迫られている。現在、HAMの病態形成機序の解明に寄与する知見を獲得するという主目的を維持したまま、実現可能な代替実験計画案を検討している。これまでに、HTLV-1がコードする腫瘍原性ウイルスタンパク質であるTaxをCD4陽性T細胞特異的に発現するトランスジェニックマウス(Tax-Tg)を飼育・観察すると共に血清・脾臓細胞・リンパ節を継続的に採材してきた。今後はこれらの試料を活用し、Tax依存的な遺伝子発現動態の変化を解析する事を計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2021年度までの研究活動により、実験的自己免疫性脳脊髄炎のモデルマウスとして活用されているトランスジェニックマウス(2D2-Tg)、Tax-Tg、およびHAMモデルマウスとしての活用が期待されていたTax-Tgと2D2-Tgの交配により作成したダブルトランスジェニックマウス(2D2/Tax-Tg)を飼育し、表現型の観察及び中枢神経系の組織学的解析を実施してきた。生後10週齢前後において、中枢神経変性による下肢運動機能障害の有無をclasping testにより判定した結果、2D2-Tg及び2D2/Tax-Tgの一部個体で下肢運動機能の異常が観察された。HAMの病態と直接的な関連のない2D2-Tg固有の表現型が解析結果に影響を与える事を懸念し、全ての試験系を再検討した結果、採取した脊髄の組織学的解析により、生後約30週飼育したTax-Tgの胸髄領域に神経変性を示唆する所見が観察された。2022年度において、Tax-Tgの表現型や中枢神経変性をより詳細に解析した。その結果、一部個体では中枢神経変性を示唆する所見が組織学的に観察されたが再現性に乏しく、HAMと類似した表現型も観察されなかった。以上の結果から、これまでに2D2/Tax-Tgで観察されていたHAM様の下肢麻痺は2D2-Tgの表現型に由来するものであり、HAMモデルマウスとして活用する事が困難である事が示唆された。2D2-Tgと比較し、2D2/Tax-Tgでは下肢麻痺発症率が有意に増加する事が観察されている為、Taxが中枢神経障害の病態形成に何らかの役割を果たす事は示唆されているが、2D2/Tax-Tgを用いてHAMの病態発現機序を探索する事は現状では困難であると結論づけられる。
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今後の研究の推進方策 |
前項「現在までの進捗状況」に記した様に、当初の研究計画の完遂が困難な状況にある。HAMの病態形成機序の解明に寄与する知見を獲得するという主目的を維持したまま、本研究で得られた知見・試料を活用できる代替研究案を計画した。 これまでの研究活動により、Tax-Tgの血清・脾臓細胞・リンパ節を様々な週齢において継続的に採取してきた。Tax-TgはHAMを含むHTLV-1関連疾患の様な特徴的な表現型を示さないが、HTLV-1の感染標的であるCD4陽性T細胞特異的にTaxを発現する為、生体内におけるTax発現T細胞と他の免疫細胞の関連性を評価できる可能性がある。特に、マウスの脾臓は二次リンパ組織であり、免疫応答の場として中心的な役割を担う為、Tax依存的な免疫細胞応答を観察できる事が期待される。 はじめに、これまでに採取・保存して来たTax-Tgの脾臓細胞よりRNAを抽出し、これまでにHAMの病態発現と関連する事が指摘されている因子のmRNA発現量を定量的PCR法により評価する。本解析によりTax-Tgの脾臓細胞中でHAM患者と類似した遺伝子発現動態が観察された場合、IL17およびIL-17Rの遺伝子発現動態を同様に解析する。また、Tax-Tgの脾臓細胞は、CD4陽性T細胞特異的にTaxを発現するという性質上、他のHTLV-1関連疾患(成人T細胞白血病等)の解析にも応用できる汎用性の高い試料である事が推察される。本研究で得た試料を有効活用する為に、HAMを含むHTLV-1関連疾患で発現変動が示唆される因子を対象に、遺伝子発現動態の変化を包括的に解析する事も検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度までの研究活動により、当初の研究計画を完遂する事が困難な状況にある事が明らかとなり、研究計画全体の大幅な変更を迫られている(「研究実績の概要」・「現在までの進捗状況」に詳細を記載)。現在、代替となる研究案(「今後の研究の推進方策」に詳細を記載)を計画したが、2022年度時点で遂行する事は困難であり、予算執行が滞る原因となった。 2023年度から研究代表者の所属機関が変更となったが、本科研費は本研究の完遂に向けて使用する。また、2023年度中には得られた研究成果をまとめ、国際科学誌に論文投稿する予定である。論文投稿に必要となる費用(英文校正費用、論文掲載料等)にも本科研費を使用する事を計画している。
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