ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)は病原性レトロウイルスであり、両下肢麻痺や排尿排便障害を主症状とするHTLV-1関連脊髄症(HAM)を引き起こす。HAMは、HTLV-1感染細胞が脊髄内に侵入して慢性炎症を誘起する事により発症すると考えられているが、その詳細な機序は明らかとされていない。 本研究室のこれまでの研究活動により、HTLV-1 Taxタンパク質依存的に中枢神経性の下肢麻痺を自然発症するHAMモデルマウス(2D2/Tax-Tg)を用いて、HAM病態形成に果たすIL-17及びIL-17受容体(IL-17R)の役割の解明を試みてきた。しかしながら、2022年度までの研究活動により、2D2/Tax-Tgで観察されるHTLV-1 Taxタンパク質依存的な中枢神経障害は再現性に乏しく、2D2/Tax-Tgを用いてHAMの病態発現機序を探索する事は困難であると結論づけられ、研究計画の大幅な変更を迫られた。 研究代表者のこれまでの活動により、HTLV-1がコードする腫瘍原性ウイルスタンパク質であるTax及びHTLV-1 bZIP factor(HBZ)をCD4陽性T細胞特異的に発現するトランスジェニックマウス(Tax-Tg、HBZ-Tg)の飼育及び脾臓細胞の採材を継続的に行ってきた。2023年度において、本研究で得られた知見・試料を活用できる代替研究として、Tax-Tg及びHBZ-Tgの脾臓細胞中の遺伝子発現動態の解析を実施した。その結果、HAMの病態形成機序と関連する遺伝子発現の変化は認められなかったが、他のHTLV-1関連疾患である成人T細胞白血病の病態形成機序と関連して発現動態が変化する新規遺伝子を見出した。 以上より、計画当初の目的を達成する事はできなかったが、HTLV-1関連疾患の病態形成機序の解明に寄与する知見を獲得する事に成功した。
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