研究課題
本研究は、哺乳類の抗ウイルス免疫に関わる新たな仕組みを解明することを目的としている。本研究計画では、RNAウイルスの一種であるボルナ病ウイルス(BoDV)と、そのEVEである内在性ボルナウイルス様配列(EBLN)をターゲットに、哺乳類におけるEVE由来piRNAを介した抗ウイルス機構の可能性を検証する。1. PIWI-piRNA経路ノックアウトがBoDV感染に及ぼす影響PIWI-piRNA経路がBoDV感染に与える影響を調べるため、RNA切断活性をもつマウスPiwi(Mili)遺伝子をノックアウトしたマウスにBoDVを脳内接種し、接種後4週目に定量的RT-PCRを用いてBoDVの感染を評価した。その結果、Mili KOマウスでは、野生型マウスと比べて脳全体のウイルスRNA量が多いことが示されたが、統計学的な有意差は認められなかった。2. EBLN由来piRNAによる抗ウイルス機構の解析我々は以前CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集と交配により、piRNAを産生する3つのEBLNを全てノックアウトしたEBLN KOマウスを作製した。BoDV感染実験の結果、EBLN KOマウスと野生型マウスにおける脳全体のウイルスRNA量の差異は認められなかったが、脳組織観察により海馬においてBoDVの感染性が異なることがわかった。これらの結果と関連して、近年piRNAとMiliが海馬の神経前駆細胞(NPC)で高度に発現していることが示されていた。以上の先行研究より、EBLN由来piRNAが海馬NPCにおいてBoDV感染を抑制する可能性を新たに着想し、海馬NPCを用いたBoDVの感染実験系を確立した。
2: おおむね順調に進展している
当初立てた仮説とは結果が異なったが、海馬NPCを用いたBoDVの感染実験系の確立など、今後の研究進展に向け一定の成果をあげつつあるため。
前述した研究実績を踏まえ、今後は以下の実験を遂行する。1. PIWI-piRNA経路ノックアウトがBoDV感染に及ぼす影響本年度使用したMili KOマウスはMili遺伝子のエキソン2-5を欠損しているが、このマウスからMili遺伝子の短い転写産物が産生されることを確認した。これらの転写産物は、RNA切断活性をもつPIWIドメインを含む領域をコードしており、様々な細胞で機能を持つことが報告されている。そこで今後は、PIWIドメインを含む領域をノックアウトした新たなMili KOマウスを用いてBoDVの感染実験を行う。2. EBLN由来piRNAによる抗ウイルス機構の解析EBLN由来piRNAが海馬のNPCにおいてBoDV感染を抑制するか否かを検討する。野生型マウス、EBLN KOマウスから分離したNPCにBoDVを接種し、BoDV感染に対する感受性を比較する。また、BoDVに感染した海馬NPCから抗BoDV piRNAを検出するため、BoDVを接種したNPCからマウスPIWIタンパク質を免疫沈降し、PIWIタンパク質に結合しているpiRNAをSmall RNA-seqによって解析する。
当初計画していたin vivo動物実験からNPCを用いた実験系にシフトしたため、今年度は動物実験を行う回数が少なかった。また、学会参加のための費用を計上していたが、新型コロナウイルス感染症の影響によりオンライン参加となったため、次年度使用額が生じた。
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