研究課題/領域番号 |
21K15460
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
横井 友樹 北海道大学, 先端生命科学研究院, 特任助教 (10895824)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 腸管粘膜免疫 / 自然免疫 / Paneth細胞 / α-defensin |
研究実績の概要 |
小腸上皮細胞であるPaneth細胞は腸内の細菌刺激に応答して抗菌ペプチドα-defensinを豊富に含む細胞質顆粒を分泌することで腸管自然免疫に寄与している。本研究の目的は腸管内腔へ侵入した病原体のセンシングからPaneth細胞が顆粒を分泌するまでの一連のPaneth細胞を中心とした腸管自然免疫応答カスケードを明らかにすることである。令和3年度はまず、腸管内腔側からの細菌刺激が上皮細胞によってセンシングされ、Paneth細胞に伝わることで顆粒分泌に至る経路を明らかにするために、小腸上皮細胞の三次元培養系であるエンテロイドを用いたカルシウムイメージングを実施した。蛍光カルシウムセンサーであるGCaMP6ノックインマウスの小腸から作出したエンテロイドの内腔へマイクロインジェクション法により細菌を導入し、Paneth細胞を含む小腸上皮細胞の細胞内カルシウム動態を、共焦点レーザー顕微鏡を用いた三次元タイムラプスにより解析した。サルモネラ生菌をエンテロイド内腔へ導入すると、上皮細胞の細胞間カルシウムウェーブが起こった後、Paneth細胞が顆粒を分泌した。また、細胞間カルシウム伝播に関わる分子に対する阻害剤でエンテロイドを処理すると、細菌導入時の細胞間カルシウムウェーブが抑制され、Paneth細胞は顆粒を分泌しなかった。以上の結果より、Paneth細胞が上皮細胞間情報伝達によって腸内へ侵入した病原菌をセンシングし、顆粒分泌に至る小腸上皮細胞が連携した自然免疫応答を示すことを明らかにした。このことは、腸管粘膜免疫ネットワークの新たなメカニズム解明に進展すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、腸内リガンド感知からPaneth細胞顆粒分泌に至る経路を明らかにするために、エンテロイドを用いたex vivoライブイメージングによる細胞内カルシウム動態解析を実施し、腸管粘膜免疫における小腸上皮細胞同士のコミュニケーションによる病原体侵入に対処するための新たな自然免疫応答の情報伝達経路を明らかにした。また、小腸上皮細胞が細菌刺激を細胞間で伝達するための分子メカニズムを示したことから当初の計画通りに研究が進展している。さらに、今後予定している細菌刺激センシング細胞を同定するための小腸上皮カルシウムトレーシングやPaneth細胞内シグナル伝達経路解析に用いる各種ノックアウトマウスの準備なども進めた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、細胞間カルシウム伝播による上皮間情報伝達を介したPaneth細胞顆粒分泌応答の起点と考えられる細菌刺激をセンシングしたセンサー細胞を同定するために、細胞内カルシウム上昇を不可逆的に記録可能なカルシムセンサーであるCaMPARIを用いたカルシウムトレーシング計画している。また、伝播した刺激をPaneth細胞が受容し、顆粒の開口放出に至るまでのPaneth細胞内シグナル伝達経路を明らかにするために、単離Paneth細胞のmRNA発現解析および各種阻害剤やノックアウトマウスを用いたPaneth細胞分泌機能評価を行い、顆粒分泌に関わる細胞内シグナル因子を同定する。さらに、小腸組織透明化免疫染色によって、Paneth細胞におけるシグナル因子のタンパク質発現と局在を検証する。以上により、腸内環境制御を担うPaneth細胞の顆粒分泌応答における起点から終点までのメカニズムの全貌を解明し、宿主の細胞群が互いにネットワークを形成して恒常性を維持している複雑な腸管粘膜免疫の理解を目指す。
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