本研究は、小腸上皮細胞であるPaneth細胞が腸内の病原体感知から抗菌ペプチドα-defensinを含む顆粒の分泌に至る腸管自然免疫応答のメカニズムの全体像を明らかにすることを目的とする。Paneth細胞が腸を構成する上皮細胞、上皮下細胞群と連携して病原体等を感知し、顆粒を分泌するという細胞間ネットワークを仮説として、2023年度は、上皮下細胞群の中でコリン作動性神経が産生するアセチルコリン (ACh)がPaneth細胞の顆粒分泌を制御する分子メカニズムの解明に迫った。具体的には、小腸組織の透明化免疫染色による3Dイメージングにより、陰窩基底部のPaneth細胞基底膜側近傍にAChを産生するコリン作動性神経が局在していることを示した。また、Paneth細胞はムスカリン性ACh受容体を発現しており、ACh刺激に応答して激しく顆粒を分泌することを示した。さらに顆粒分泌応答のシグナル伝達経路を明らかにするために、プロテインキナーゼC (PKC)各アイソフォームのノックアウトマウスから小腸上皮細胞の三次元培養系であるエンテロイドを作出し、Paneth細胞の顆粒分泌を評価したところ、コンベンショナルPKC (cPKC)欠損エンテロイドにおいて、顆粒分泌が野生型と比べて有意に抑制された。以上より、Paneth細胞顆粒は上皮下コリン作動性神経からのAChをACh受容体で受容し、下流のcPKCを介して顆粒分泌に至る分子メカニズムを明らかにした。 本研究は、Paneth細胞顆粒分泌応答が腸上皮細胞間カルシウム伝播による上皮―上皮細胞間および上皮下コリン作動性神経による上皮下-上皮細胞間のコミュニケーションにより制御されるという腸内のリガンド感知から抗菌ペプチド分泌に至る自然免疫応答の2つの経路と分子メカニズムを明らかにしたことで、腸管粘膜免疫制御による生体恒常性維持の解明に貢献する。
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