研究課題/領域番号 |
21K15467
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
城 憲秀 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (50849552)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | T細胞 / 恒常性増殖 / 生体外物質トランスポーター |
研究実績の概要 |
胸腺退縮に伴って新たなT細胞産生は急速に低下するが、末梢T細胞は「恒常性増殖」という機構により緩徐に細胞分裂することで生涯にわたり絶対数を維持することができる。一方で、末梢T細胞は加齢の影響を受けやすく、増殖能低下・炎症性サイトカイン産生能の上昇など様々な機能的変容を来す。すなわち、「恒常性増殖」という機構は、長期間にわたるT細胞の生存・自己複製という点において有利である一方で、加齢変化を蓄積させてT細胞老化を引き起こすという二律背反な問題を抱える。申請者は、胸腺摘出によって恒常性増殖を促進させた若齢マウスのナイーブCD4 T細胞が、生体外物質トランスポーターであるMDR1を高発現し、有毒となる物質を細胞外に排出していることを見出した。T細胞におけるMDR1の大きな役割として、細胞の長期生存と炎症性サイトカインの制御が報告されているが、申請者が着目している恒常性増殖においても重要な役割を担っていると考えられる。本研究では、①T細胞の恒常性増殖においてMDR1が果たす役割、および②その破綻がT細胞老化や加齢関連疾患に与える影響を解明することを目的とする。 令和3年度にはMDR1 KOマウスのT細胞においてミトコンドリア膜電位プローブの染色性が強いこと確認し、プローブをMDR1の基質として実験に使用できることを確認した。MDR1 KOマウスに胸腺摘出術、高脂肪食などの負荷を与えて、T細胞維持におけるMDR1の役割を解析している。またIn vitroでMDR1 KOマウス由来のT細胞に様々な基質を添加して培養し、生存や活性化に与える影響を検証している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
KOマウスの作成は完了している。MDR1 KOマウスに胸腺摘出術、高脂肪食などの負荷を与えるなどの介入を行うことで、MDR1のT細胞における機能的役割について探索を行っている段階である。またIn vitroでMDR1 KOマウス由来のT細胞に様々な基質を添加して培養し、生存や活性化に与える影響を検証している。計画した実験は概ね予定どおり実施することができている。
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今後の研究の推進方策 |
MDR1 KOマウスの胸腺や末梢リンパ組織を、フローサイトメトリーを用いて解析し、T細胞の分化・成熟に明らかな異常を認めなかった。作製されたマウスは全身性のKOマウスを有しているが、発育・成長にも大きな異常を認めず、今後のT細胞におけるMDR1の機能的解析に使用することが問題ないと考えられた。現在は、交配ではなく体外受精によるコロニー拡大を行うことで、研究進捗を促進させるように努めている。 今後は、若齢期に胸腺摘出をしたMDR1 KOマウスもしくは高齢MDR1 KOマウスのT細胞の状態を解析することで、胸腺摘出に伴うT 細胞の恒常性増殖や自然加齢におけるMDR1の機能的意義について検証を行う。CD3陽性細胞数、CD4/8比を定量し、MDR1の末梢組織でのT細胞長期生存に寄与する役割を評価する。また、BrdU投与やKi-67染色を行い、恒常性増殖の程度を評価する。MDR1が長期生存に寄与する場合には、毒性のある生体外物質を細胞外に排出している可能性がある。原因物質として代謝産物もしくは蛋白物質を考える場合にはメタボローム解析やプロテオミクス解析などを検討する。またMDR1は脂質を生体外に排出する機能を有することが報告されている。上記マウスに高脂肪食やウェスタンダイエットなどのストレスを与えて、生活習慣病がT細胞の維持に与える影響及びMDR1の役割につ いて検証する。またIn vitroでMDR1 KOマウス由来のT細胞に様々な基質を添加して培養し、生存や活性化に与える影響を検証している。
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次年度使用額が生じた理由 |
ノックアウトマウスへの胸腺摘出術と高脂肪食負荷、およびその免疫学的解析を主に行ったが、使用する資材が所属する研究室に配備されているものが多かった。今後、MDR1の機能的役割や基質の検証にあたり、網羅的発現解析、プロテオーム・メタボローム解析などを行う可能性が考えられ、そちらに予算を使用していく計画である。
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