患者より採取した気道上皮細胞を用いて、PI3Kδ阻害剤がヒトメタニューモウイルス感染時に共抑制分子PD-L1の発現増強を抑制し、一方で自然免疫である抗ウイルスインターフェロンの産生を増強を介して、PD-L2の発現をさらに増強することを示した。ウイルス特異的細胞障害性T細胞の活性化を抑制することで感染の遷延化に関わるPD-L1とは異なり、PD-L2はCD4陽性T細胞を活性化させ、PD-L1/PD-1結合を抑制することで病原体の排除を促進するとの報告がある。すなわち気道ウイルス感染時に、PI3Kδを介した自然免疫と獲得免疫のクロストークがあり、PI3Kδ阻害剤は自然免疫・獲得免疫両面からウイルスの排除に対し促進的に作用する可能性があることを報告した(Ogawa T et al. Front Immunol. 2021 Nov 25;12:767666.)。 ex vitroで示したPI3Kδ阻害剤の抗ウイルス効果・抗炎症効果を、マウス感染モデルで解明する目的に、PCLS (precision-cut lung slices)という技術を用いてマウス肺 ex vivo培養系のmethodを確立した。具体的には、振動刃ミクロトームを用いてマウス肺を損傷することなく200-500ミクロンの切片に切り出し、気道上皮細胞、平滑筋細胞、免疫担当細胞や神経細胞などの多種多様な細胞と、細胞外基質からなる3次元肺微小環境を実験的に再現し、長期培養する技術を確立した。また長期培養後のPCLSからのRNA抽出による遺伝子発現評価が可能であり、PCLSヘヒトメタニューモウイルスを感染後の経時的なウイルス増殖能と、抗ウイルスインターフェロンや炎症性サイトカイン・ケモカインなどの免疫応答誘導を確認し、最終年度に学会での発表を行った。
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