研究課題/領域番号 |
21K15473
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大谷木 正貴 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (70882497)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 神経免疫 / 認知症疾患 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)患者脳では、アミロイドβ(Aβ)やリン酸化tauの脳内凝集が特徴的な病理変化であり、病変部位には活性化したグリア細胞に加え、種々のT細胞の浸潤が認められる。とくに、AD患者脳脊髄液中で抗原特異的なCD8陽性T細胞がオリゴクローナルに増殖していることが報告されているが、AD病態においてCD8陽性T細胞が担う病的意義については明らかとなっていない。本研究では、まずAPPノックイン(APP-KI)マウスとT細胞を特異的に欠くCD3eノックアウトマウスの交配(APP/CD3eKOマウス)により、T細胞の除去が比較的初期のAβ凝集を抑制することを確認した。APP-KIマウスに対して抗CD4抗体、抗CD8抗体の継続投与によりCD4陽性、CD8陽性T細胞をそれぞれ減少させたところ、抗CD8抗体の投与により脳内Aβ凝集が低下し、神経炎症も軽減していた。一方、APP/CD3eKOマウスやCD8抗体投与マウスでは、Aβ産生プロセスに関与するAPP、β-セクレターゼ、γ-セクレターゼの発現には変化を認めなかった。今後、APP-KIマウスとAPP/CD3eKOマウスの大脳皮質組織のRNA-seqによる網羅的解析により、T細胞がアミロイド病理変化に関与する標的分子の同定を進めるとともに、脳免疫細胞のシングルセルRNA-seqとTCRレパートワ解析により、抗原特異的CD8陽性T細胞とその標的抗原の同定、神経炎症を含めたアミロイド病理に関与する分子基盤の解析を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、まずAPP-KIマウスとT細胞を特異的に欠くCD3eノックアウトマウスの交配(APP/CD3eKOマウス)により、T細胞の除去が比較的初期のAβ凝集を抑制することを確認した。さらにAPP-KIマウスに対し、抗CD4抗体、抗CD8抗体を継続投与してCD4陽性、CD8陽性T細胞をそれぞれ減少させたところ、抗CD8抗体の投与により脳内Aβ凝集が低下した。さらにAPP/CD3eKOマウスと抗CD8抗体を投与したマウスでは、APP-KIマウスと比較して活性化ミクログリアやアストロサイトが減少しており神経炎症が軽減していた。APP/CD3eKOマウス脳スライス培養とAPP-KIマウスから単離したCD8陽性T細胞との共培養でも、脳内Aβは減少した。一方、APP/CD3eKOマウスや抗CD8抗体を投与したAPP-KIマウスの脳抽出液を用いた解析では、Aβ産生プロセスに関与するAPP、β-セクレターゼ、γ-セクレターゼのmRNA、タンパク発現には差は認めなかった。現在、野生型マウス、APP-KIマウス、APP/CD3eKOマウス大脳皮質組織のRNA-seqによる網羅的解析を行い、アミロイド病理の変化に関与する標的分子の同定を進めている。さらに、脳内CD45陽性免疫細胞の遺伝子発現変化を評価するため、野生型マウス、APP-KIマウス、APP/CD3eKOマウス脳から単離したCD45陽性免疫細胞のシングルセルRNA-seq解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、ジフテリア毒素誘導性にCD8陽性細胞を選択的に減少させるCD8DTRマウス、CD8DTAマウスを得ており、APP-KIマウスとの交配によりCD8陽性T細胞の減少が脳内Aβ凝集に与える変化を観察する。APP-KIマウスの大脳皮質組織のRNA-seqで得た発現変動遺伝子から標的候補分子を同定し、阻害抗体や低分子阻害薬を用いた阻害実験、あるいはノックアウトマウスやトランスジェニックマウスを利用した脳内アミロイド病理の変化を解析する。さらに、APP-KIマウス脳内に常在するCD8陽性T細胞のT細胞受容体レパートワ解析から同定したTCR cDNAをT細胞ハイブリドーマに発現させ、TCR導入ハイブリドーマを増殖させる脳内抗原をスクリーニングする。さらに上記で得られた抗原特異的T細胞がアミロイド病理に与える影響を神経細胞やグリア細胞、あるいは脳スライス培養との共培養系を用いて評価する。
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