研究課題/領域番号 |
21K15476
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研究機関 | 公益財団法人かずさDNA研究所 |
研究代表者 |
菅野 敏生 公益財団法人かずさDNA研究所, 先端研究開発部, 特別研究員 (90849291)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | T細胞 / 脂質代謝 / 抗ウイルス応答 / SCD2 / STING / cGAMP / インフルエンザウイルス |
研究実績の概要 |
ウイルスなどの病原体は生体に侵入すると免疫システムに認識され、活性化した免疫細胞からI型IFNをはじめとした炎症性サイトカインが産生されることで抗ウイルス応答が開始される。このようにウイルスに対する生体応答の一端は解明されているが、昨今の新型コロナウイルスを含め、ウイルス感染症の多くには未だ有効な治療薬が少ない。そのような背景の下、我々はウイルス感染時に免疫システムの司令塔であるT細胞の脂質合成が低下すること、また人為的にT細胞の脂質代謝をコントロールすることで劇的に抗ウイルス応答を上昇させる新たな知見を見出している。そこで本研究では、抗ウイルス性T細胞を制御する脂質代謝の重要性を解明し、脂質に着目したウイルス感染予防や効果的な抗ウイルス薬の開発を目指す。 まずはじめに、我々は、T細胞のACC1(脂肪酸合成の律速酵素)を欠損させることで、I型IFN依存的に抗ウイルス応答が誘導されることを見出した。次に我々は、数多くある脂質の中でも、どのような脂質が「脂質-抗ウイルス応答」を担うかを探索するために、高精度リピドミクス解析とCRISPR/Cas9スクリーニングシステムによる脂質合成遺伝子群の編集を行った。数多くの検討を重ねた結果、一価飽和脂肪酸の合成酵素であるSCD2がT細胞の抗ウイルス応答を誘導する責任酵素であることを見出した。興味深いことに、脂質代謝調節による抗ウイルス応答には、自己・非自己の核酸を認識し、活性化する病原体センサーのSTINGが関与することが示されている。これらの知見は、T細胞には、ウイルス感染をより鋭敏に察知するためSTINGを活性化させる「脂質スイッチ」が備わっていることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請では、以下に示す3つの項目を柱として研究を行う。 (1) T細胞の抗ウイルス活性を高める責任酵素・脂質の同定:抗ウイルス応答を誘導する責任脂質・責任酵素を探索するために、高精度リピドミクス解析および脂質合成酵素に限定したCRISPR/Cas9スクリーニングシステムを行った。これまでに、数多くの検討を重ねることで、一価不飽和脂肪酸の合成酵素であるSCD2が抗ウイルス応答に重要な責任脂質であることを見出した。また、一価不飽和脂肪酸を含むトリグリセリドが、抗ウイルス応答の誘導に重要であることが示唆されている。 (2) STING活性を司るT細胞特有の脂質スイッチシステムの解明:ACC1やSCD2の欠損により、自己・非自己の核酸センサーであるSTINGが活性化することを見出した。また、脂質代謝の制御により、STINGの活性化リガンドの産生量が増大することを見出した。現在、なぜこの活性化リガンドが産生されるかについて検証を行っている段階である。 (3) マウス感染症モデルを用いた「脂質-STING」を軸とした抗ウイルス応答の検証:すでに脂質代謝阻害剤がマウスのインフルエンザウイルス感染を、効果的に抑制することを見出している。現在、ウイルスの種類を変更して、「脂質-抗ウイルス応答」の研究を行うところである。 (1), (2)については、概ね申請書に記載の通り進んでいる。(3)についても、予備的な実験が進んでおり、2022年度に行う予定であったことから、予定通り進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
T細胞の「脂質-抗ウイルス応答」の研究を行い、SCD2により合成される一価不飽和脂肪酸が減少することで、核酸センサーであるSTINGが活性化された結果、I型IFN依存的に抗ウイルス応答が誘導されることを見出した。興味深いことに、脂質代謝の制御を行うことで、非ウイルス感染下において、STINGの活性化リガンドが増大していた。これらのことは、「脂質-抗ウイルス応答」の研究の発展により、脂質を基軸としたウイルス感染予防(ワクチン開発)が可能であることが考えられる。また、我々が発見した本現象の優れている点の一つとしてT細胞にも関わらず、抗ウイルス活性を発揮するのに抗原特異性を必要としない(ポリクローナル)ことが挙げられる。そのため、風邪をひきおこす様々なウイルス(コロナウイルス、RSウイルス、アデノウイルスを含む)に対応可能な抗ウイルスT細胞を簡便に誘導することができるのではないかと着想している。これらの構想を検証するべくT細胞の「脂質-抗ウイルス応答」がどの種類のウイルス種にまで作用しうるかについて評価を行いたく考える。特に、エンベロープの有無、RNA/DNAウイルスの違い、及び1本鎖、2本鎖核酸の違いに焦点をあてて分類特異性について明らかにしたく考える。また、脂質代謝制御によりその感染抑制が認められたウイルス種については、ウイルス自体のリピドミクス解析を行うことで、脂質の選り好みがあるのかどうか?また、どの脂質種がウイルス感染に必要であるか?ウイルスの脂質依存性についての作用点について評価を行う予定である。
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