研究実績の概要 |
昨年報告した通り、令和4年度からは当初の計画を変更し研究を施行した。 これまで、FAP(家族性大腸腺腫症)の臨床検体、ならびに公開されているデータベースを用いて実験を行った結果、FAPの腺腫においてABCC3の発現が低下していることを明らかにした。この結果から、FAPにおけるABCC3の発現低下が大腸癌発癌に関わっているのではないかと考えた。過去の文献から着想を得て、ABCC3の発現変化が細胞内のDCA(デオキシコール酸)濃度を変化させ、MAPKシグナルに影響を与えていると仮説を立てた。まず後者を検証するためにABCC3を過剰発現させた大腸癌細胞株(SW620, HT-29)にDCAを加える実験を行った。その結果、MAPKシグナルの活性化を示すERKのリン酸化が抑制されていることが明らかとなった。 令和5年度は、前述のABCC3とDCAの関係を明らかにするために、ABCC3の発現変化が細胞内のDCA濃度に与える影響を検証した。ABCC3のノックダウン細胞株と過剰発現細胞株、ならびに蛍光標識されたDCAであるDCA-NBDを用いて実験を行った。その結果、ABCC3の発現変化に伴ってDCA-NBDの細胞内濃度が有意に変化することが明らかになった。以上より、ABCC3の発現変化により細胞内のDCA濃度が変化し、その結果MAPKシグナルに影響を与えるという、新規発癌機構の存在が示唆された。 さらに、これまでFAPの発癌抑制効果が示唆されてきたNSAIDs (非ステロイド系抗炎症薬) がこの機構に関与しているのではないかと考え、各種NSAIDsを大腸癌細胞株に付加した結果、NSAIDs付加によってABCC3の発現が亢進することが明らかとなった。NSAIDsはABCC3の発現を亢進することで、大腸癌発癌過程を抑制する可能性が示唆された。
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