シスチン/グルタミン酸輸体(xCT)ががんの転移に果たす役割の一端を解明するため、ヒトサルコーマ細胞(HT1080)を用い、xCT遺伝子欠損細胞(KO)を作製し、がん細胞の転移能に関与する機能を評価した。その結果、野生型細胞(WT)と比較し、KOでは細胞増殖、遊走能、浸潤能、血管内皮細胞への接着性が有意に低下した。KOにヒトxCT遺伝子を再導入して作製したxCT過剰発現細胞(OE)では、増殖、遊走はWTと同程度に回復する傾向にあったが、浸潤能と血管内皮細胞への接着性はWTよりも有意に低かった。更にがん細胞の非足場依存的増殖を再現した三次元培養系では、WTに比しKOとOEで生細胞数が有意に低下した。これら細胞のタンパク質発現解析を行ったところ、細胞間接着を担うN-Cadherinの発現がKOとOEにおいて低下していることが確かめられた。以上より、xCT遺伝子の欠損ががん細胞の転移能維持に関与する種々の機能を低下させることがわかり、xCTの阻害剤による転移能制御の有用性が示唆された。本研究でxCT遺伝子過剰発現によっても転移能が低下することが示され、今後はそのメカニズムについても解明する必要がある。 また、xCTは細胞死様式の一つであるフェロトーシスの制御因子でもある。xCTを標的としたフェロトーシス誘導によるがんの転移制御について検討する目的で、xCTの阻害効果が知られる多標的キナーゼ阻害剤sorafenibのxCT阻害特性を解析した。HT1080-WT、KO、OEを用いて検討した結果、sorafenibの細胞死誘導効果はxCTの発現に依存せず認められた。更にsorafenibにより誘導される細胞死は、フェロトーシスによるものではないことが明らかとなった。今後の研究を発展させるためには、In vivoにおいても有用で、xCTの機能阻害性と特異性の高い化合物を見出す必要がある。
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