研究課題/領域番号 |
21K15487
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
長谷川 加奈 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任助教(常勤) (20777370)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 多発性骨髄腫 / インテグリンβ7 |
研究実績の概要 |
我々はこれまでに多発性骨髄腫においてインテグリンβ7が恒常的に活性化していることを発見し、活性型インテグリンβ7を標的としたCAR T細胞が多発性骨髄腫に対して高い抗腫瘍効果を持つことを示してきた。インテグリンβ7の恒常的活性化は、骨髄腫の病態形成に関与している可能性があるが、そのメカニズムと機能的意義は未だに明らかになっていない。そこで、本研究では、多発性骨髄腫においてインテグリンβ7の恒常的活性化の原因となっている分子の同定とその機能の解析を目指すことにした。まず、骨髄腫細胞にCas9タンパクを発現させた細胞を作製し、さらに、CRISPR gRNA libraryベクターを導入し、ランダムに遺伝子を欠損した細胞を作製した。今後、それらの細胞を自作の活性型インテグリンβ7特異的抗体であるMMG49、および既存の抗インテグリンβ7抗体で染色し、インテグリンβ7タンパクそのものの発現は維持されている(既存の抗インテグリンβ7抗体陽性)が、活性化が抑制されている(MMG49陰性)細胞に高い頻度で導入されているgRNAを同定することで、骨髄腫細胞におけるインテグリンβ7の恒常的活性化に必要な分子を同定することにしており、現在その予備的検討を進めている。 さらに、我々はMMG49以外にもう一つ多発性骨髄腫特異的抗体を有している。それはR8H283という抗体で、CD98 heavy chain (hc)を特異的に認識する。R8H283の骨髄腫特異性の解明を行った結果、骨髄腫細胞と正常血液細胞に発現するCD98hcの糖鎖修飾の違いがR8H283の結合特異性の原因となっている可能性を示した(Hasegawa et al. Science Translational Medicine, 2022)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はこれまでに多発性骨髄腫においてインテグリンβ7が恒常的に活性化していることを発見し、活性型インテグリンβ7を標的としたCAR T細胞が多発性骨髄腫に対して高い抗腫瘍効果を持つことを示してきた。インテグリンβ7の恒常的活性化は、骨髄腫の病態形成に関与している可能性があるが、そのメカニズムと機能的意義は未だに明らかになっていない。そこで、多発性骨髄腫においてインテグリンβ7の恒常的活性化の原因となっている分子の同定とその機能の解析を目指し研究を開始した。まず、CRISPR gRNA libraryを用いたランダムノックアウトによって、骨髄腫細胞においてインテグリンβ7の恒常的活性化を惹き起こす分子を同定することにした。我々は、上記のCAR T細胞の元になっている活性型インテグリンβ7特異的抗体であるMMG49を有している。R3年度には、MMG49抗体が結合するMM.1S骨髄腫細胞にCas9タンパクを発現させた後、細胞クローンを取得し、Cas9 reporterベクターを導入することにより、Cas9タンパクを発現していることを確認した。次に、CRISPR gRNA libraryベクターを導入し、ランダムに遺伝子を欠損させた細胞集団を作製し、拡大培養した。今後、それらの細胞を既存の抗インテグリンβ7抗体およびMMG49抗体で染色し、インテグリンβ7タンパクの発現は維持されているが(既存の抗インテグリンβ7抗体陽性)、活性化が抑制されている(MMG49陰性)細胞をセルソーターで回収し、NGS解析を行い、高い頻度で検出されるgRNAを同定することで、骨髄腫細胞におけるインテグリンβ7の恒常的活性化に必要な分子を同定することにしており、現在その予備的検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
R3年度に、Cas9タンパク発現骨髄腫細胞を作製し、その後にCRISPR gRNA libraryベクターを導入し、ランダムに遺伝子を欠損させた細胞を作製した。今後、自作の活性型インテグリンβ7特異的抗体であるMMG49、および既存の抗インテグリンβ7抗体を用い、インテグリンβ7タンパクの発現は維持されているが(既存の抗インテグリンβ7抗体陽性)、活性化が抑制されている(MMG49陰性)細胞をセルソーターで回収し、NGS解析を行い、高い頻度で検出されるgRNAを同定することで、骨髄腫細胞におけるインテグリンβ7の恒常的活性化に必要な分子を同定することにしている。その後、同定した分子の性質に応じて、それがインテグリンβ7の恒常的活性化を惹起する経路を明らかにしていく。例えば、候補分子が遺伝子の転写調節に関わる分子であった場合には、当該分子をノックアウトした骨髄腫細胞を作製し、野生型細胞との遺伝子発現の比較をRNA-seq解析により行い、どのようなpathwayが関係しているのかを明らかにする。あるいは、候補分子が他のタンパク(例えばtalinなど)との会合を介して機能を発揮すると予想される分子の場合には当該分子と会合する分子を追いかけていく事によりその機能を明らかにする。そして、治療標的となりうるkeyとなる分子を同定する。さらに、骨髄腫細胞における機能、特にインテグリンβ7恒常的活性化による骨髄微小環境との接着についての機能を明らかにする。具体的には、同定した分子をノックアウトした骨髄腫細胞を用いて、in vitroにおいてはインテグリンβ7のリガンドであるMAdCAMあるいは、それを発現する骨髄ストローマ細胞との接着、またin vivoにおいては免疫不全マウスの骨髄への生着およびその後の生存・増殖が、野生型細胞で恒常的に亢進しているかどうかを検討する。
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