我々はこれまでに多発性骨髄腫においてインテグリンβ7が恒常的に活性化していることを見出してきたが、そのメカニズムと機能的意義は未だに明らかになっていない。当初、我々はCRISPR gRNA libraryによるランダムノックアウトと、独自に単離した活性型インテグリンβ7特異的抗体であるMMG49を用いて、多発性骨髄腫におけるインテグリンβ7の恒常的活性化の原因となっている分子の同定とその機能の解析を行う予定であったが、想定していたような候補分子の同定には至らず、今後スクリーニング系を見直し再度実施する予定である。我々は以前に実施した多発性骨髄腫特異的抗体スクリーニングにおいて、MMG49と別のR8H283という抗体を単離しており、その研究も同時に進めてきた。これまでに、R8H283が広汎に発現するCD98 heavy chain (hc)タンパクを認識するにもかかわらず、正常血液細胞および非血液系の正常臓器には結合せず、骨髄腫にのみ特異的に結合することを示してきたが、その骨髄腫特異性のメカニズムについては不明であった。本研究では新たに、骨髄腫細胞と正常血液細胞に発現するCD98hcの糖鎖修飾の違いがR8H283の骨髄腫特異性の原因となっている可能性があることを明らかにした。さらに、R8H283は骨髄腫のみならず固形癌である肺がんにも結合することが予備的検討で明らかであったが、本研究では、患者手術検体を用いて、R8H283が肺がん細胞には結合する一方で、同じく患者由来の正常肺胞上皮細胞には結合しないことを明らかにした。さらに、R8H283を元に作製したCAR-T細胞が、免疫不全マウスに移植した肺がん細胞に対して抗腫瘍効果を持つことを示した。
|