放射線は主要ながん治療法として今日では広く利用されているが、がん細胞の中には放射線治療過程において放射線に抵抗性を示すようになるものが存在しており、予後不良因子となりうる。従って、放射線照射によって放射線抵抗性を示すようになったがんに対する効果的な治療方法の開発が急務である。 光線力学療法(Photodynamic therapy: PDT)は、がん細胞に集積した光増感剤に低出力レーザー光を照射することで活性酸素の一種である一重項酸素の産生を惹起し、がん細胞死を誘発するがん治療法である。PDT用光増感剤としてポルフィリン化合物が従来使用されてきた。ポルフィリンはHCP1というタンパクを介して細胞内へ輸送されることが申請者らの既往研究より明らかとなっており、さらにHCP1の発現にはミトコンドリアから産生される活性酸素が関わっていることが示唆されている。一方で、細胞への放射線照射は細胞内の、特にミトコンドリアから産生される活性酸素を増大させることが報告されている。従って、放射線に対して抵抗性を獲得する程放射線を照射されたがん細胞では、ミトコンドリア由来の活性酸素産生が増強しており、HCP1の発現上昇によってポルフィリンの集積増大およびPDTによる治療効率の増強が誘発される可能性が高い。本研究では、放射線抵抗性がん細胞株を樹立しPDTによる治療効果を検討する。 2023年度はこれまでに得られた細胞を用いた実験の結果について論文にまとめ、学術雑誌への投稿を行った。また、動物に対する有効性を確認するために、樹立した放射線抵抗性がん細胞をマウスに移植しPDT実施による治療効果を検証したところ、通常のがん細胞に比べて腫瘍の増殖が抑制される傾向が観察された。このことから、放射線照射によって放射線抵抗性を獲得したがん細胞の治療に対してPDTが一定の効果を示す事が示唆された。
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