研究課題/領域番号 |
21K15503
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
市川 彩花 大阪大学, 蛋白質研究所, 助教 (70869106)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 乳がん / がん微小環境 / 転写制御 / 細胞増殖 |
研究実績の概要 |
乳がん細胞の細胞周期制御につながる転写制御およびその下流の遺伝子発現制御についての解析を引き続き進めた。以下(1)-(3)の結果から、乳がん細胞の増殖シグナル伝達に大きく関与するErbB受容体シグナル伝達系の細胞周期エントリーおよび休止に関わる転写因子の特定と、そのモデルの全体像について考察を深めた。また、ErbB受容体シグナル伝達系における細胞周期制御についてより詳細に調べるため、細胞周期阻害剤のうちサイクリン依存性キナーゼ(CDK)4に対する阻害剤を利用した際に、エピジェネティクスを含めた転写制御がどのように変化し細胞周期エントリーに影響するのかを実験的に検証した。 (1)ヒストン修飾に対するChIP-seqとRNA-seqの解析結果から、エンハンサー領域もしくはプロモーター領域においてG1/S移行制御に関わる転写因子の候補を絞った。またCDK4阻害剤単体よりも、候補転写因子に有効な阻害剤を組み合わせて処理した時の方がG1/S移行をより抑制できた。このことから、NGS解析データと実験的検証データからErbB受容体下流で細胞周期制御に影響する転写因子を絞ることができた。 (2)ErbB受容体ファミリーのうち乳がんサブタイプ分類のバイオマーカーとして利用されるErbB2(HER2)の過剰発現細胞を作成し、細胞周期プローブを用いた一細胞イメージングを行い細胞周期の動態を解析した。その結果、(1)の結果から予測された転写因子と一部の細胞周期関連分子の発現量の動態変化の違いが、細胞周期エントリーに関わるG1/S期移行と細胞周期休止の状態に影響を与えることを示唆する結果を得た。 (3)細胞周期阻害剤を用いた臨床試験における公共の遺伝子発現データを解析したところ、本研究において細胞実験レベルで絞った転写因子が、ヒトの生体内においても阻害剤処理後に影響されうることが予測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヒストン修飾に対するChIP-seqの解析において、当初予定していた解析手法のみでは特徴的なモチーフを取得することが難しく、NGS解析およびその後の実験検証が全体的にやや遅れた。そのため現在、細胞外基質の硬化具合を加味した実験的検証がやや遅れた状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
本年は、ErbB2受容体下流で細胞周期制御に影響する転写因の候補を絞り、細胞周期エントリーにつながる転写制御とその下流の遺伝子発現動態の変化について、モデルの概要を組み立てることができた。今後は、細胞外基質の剛性の違いが着目した転写制御に及ぼす影響について乳がんサブタイプ間で比較し、異なる点を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度進める予定だったNGS解析とその後の実験検証が全体的にやや遅れたため、次年度使用額が生じた。次年度に細胞外基質の硬化具合を加味した実験的検証を進めるための物品購入に費用を充てる。
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