分泌性タンパク質Wnt5aおよびその受容体であるRor1の発現はそれぞれ肺腺がん患者の予後と相関することが報告されていることから、Wnt5a-Ror1シグナルが肺腺がんの進展に寄与していると考えられるが、その詳細な分子機構については未解明である。我々はこれまでに低分子量Gタンパク質RifがRor1を高発現する肺腺がん患者において高発現すること、RifとRor1が結合することなどを見出しており、本年度ではRifとRor1の機能連関について引き続き解析してきた。その結果、Rifは細胞外基質からの刺激によるWnt5a-Ror1シグナルの活性化に重要であり、糸状突起を形成することで肺腺がん細胞の生存や増殖、浸潤などにおいて重要な役割を担うことを明らかにした。また、Rif-Wnt5a-Ror1シグナルはがん細胞自身による血管様構造である血管擬態の形成にも重要であることを見出した。数理モデルを組み合わせることで細胞間張力が血管擬態形成に重要であること、Rif-Wnt5a-Ror1シグナルが細胞間張力に関与する可能性を見出した。また、生体におけるがん細胞の血管擬態形成能の評価系を構築するために、Xenograftによる血管擬態誘導方法の確立を試みた結果、実際に生体に移植したがん細胞が整列する様子が観察された。 Ror1は肺腺がんだけでなく、膵がん患者の予後とも強く相関することを見出した。そこで、Ror1が膵がん細胞の糸状突起形成に関与するか検討したところ、Ror1は膵がん細胞の糸状突起形成には関与しないが、増殖の制御には関わることが明らかとなった。このことから、肺腺がんと膵がんとではRor1の機能は異なることが示唆され、今後はRor1の多彩な機能がどのように制御されているか解明する必要があると考える。
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