• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2022 年度 実施状況報告書

間質圧の上昇が肺癌の病態に果たす役割の解明とその治療応用

研究課題

研究課題/領域番号 21K15513
研究機関京都府立医科大学

研究代表者

徳田 深作  京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00433277)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2024-03-31
キーワード肺癌 / 間質圧 / 細胞極性 / 腫瘍微小環境 / PKA / EGFR
研究実績の概要

ほとんどの癌組織において間質圧の上昇が認められる。しかし、間質側からの圧力が癌の病態に果たす役割については未だによく分かっていない。本研究では肺癌細胞を用いて間質側から加わる圧力が及ぼす影響を明らかにし、新たな治療法を開拓することを目的としている。
EGFR変異肺癌細胞をフィルター膜に培養して管腔側と基底側の培地の量を変えることによって圧を加えてその影響を検討したところ、基底側からの圧によって上皮の重層化が引き起こされた。上皮の重層化は経時的に進行し、基底側からの圧をなくすと上皮は単層に戻ることが確認された。
重層化した上皮を透過型電子顕微鏡で観察したところ、重層化内部に腔を認め、腔の表面に微絨毛やタイトジャンクションが観察された。また肺癌の手術検体においても同様の極性異常が認められた。また基底側からの圧によって細胞増殖の亢進やアポトーシスの抑制が引き起こされた。さらに細胞内シグナルへの影響を検討したところ、EGFRの下流のRas/Raf/MEK経路やPI3K/Akt/mTOR経路の活性に変化は認められなかった。一方、PKAの活性化剤であるフォルスコリンを加えた条件では基底側からの圧によって引き起こされる上皮の重層化が抑制された。
さらにEGFPで標識した細胞を作成して圧を加えた条件で上から細胞を加えたところ、基底側から圧を加えた条件では上から播いた細胞が生き残ることが確認された。
今後はEGFPで標識した細胞を上から加える実験系を用いて、基底側からの圧の感知への関与が示唆される遺伝子をノックアウトしてその影響について検討を行うことによって、間質圧の上昇による癌促進メカニズム解明をさらに進め、新たな治療法開拓を目指す予定である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究は概ね予定通りに進行している。本研究では6種類の肺癌細胞株を用いて検討を行い、管腔側と基底側の培地の水面差を維持できた3種類の細胞株を用いて検討を進めている。COVID-19蔓延に伴い診療に従事するため研究の時間が一時的に確保できない期間があり、またCOVID-19蔓延に伴い本研究で必要なトランスウェルのフィルターが入手できない状況が一時的に続いたが、現在はいずれも解消している。当初予定していた基底側からの圧力が肺癌細胞に及ぼす影響を検討した結果、上皮の重層化が引き起こされることが明らかになり、細胞増殖・アポトーシス・シグナルなどの検討は大きなトラブルなく進めることができた。またヒト肺癌の手術検体を用いた実験についても順調に検体を集めて検討することができた。
さらに基底側からの圧によって上皮が重層化するメカニズムを明らかにするために、関与が示唆される遺伝子をノックアウトして影響を調べることを検討したが、一部の遺伝子では遺伝子ノックアウトによって上皮シートが維持できなくなるため、実験的に圧力の影響を検討することが困難であった。
そこでEGFPで標識した細胞を作成して圧を加えた条件で上から細胞を加えたところ、基底側から圧を加えた条件では上から播いた細胞が生き残ることが確認された。今後はEGFPで標識した細胞を上から加える実験系を用いて、間質圧の上昇による癌が促進されるメカニズムについてさらに詳細に解析を進める予定である。

今後の研究の推進方策

これまでの研究結果から基底側からの圧によって肺癌細胞の増殖の亢進や上皮の重層化が引き起こされ、PKAの活性化によってこれらの反応が抑制されることが分かっている。しかし、Phospho-kinase arrayを含めたシグナル経路の解析では特定のシグナル分子の活性変化は確認できていない。そこでRNA Seqによる網羅的な発現解析を行い、基底側からの圧によって重層化などが引き起こされるメカニズムに関与する分子を特定する予定である。基底側から圧を加えてから増殖亢進が始まるまでのタイミングなどについての検討はすでに確認しており、RNA Seqを行う条件設定は終えている。
さらに、基底側からの圧力によって細胞増殖の亢進等が生じるメカニズムについて、関与が示唆される遺伝子をノックアウトして検討を行う予定である。CRISPR/Cas9を用いてノックアウト細胞を樹立する実験系の確立は終えている。また一部の遺伝子では遺伝子ノックアウトによって上皮シートが維持できなくなるため、EGFPで標識した細胞を上から加える実験系を用いて、間質圧の上昇によって癌が促進されるメカニズムの解析を進める予定である。
またこれまでの解析結果から、基底側の圧によって細胞運動が亢進しており、細胞のダイナミックな挙動に伴って上皮の重層化が進行することが示唆されている。そこでEGFPで標識した細胞をトランスウェルフィルターに逆向けに培養してライブイメージングを行うことによって、細胞運動の変化や重層化のプロセスについて解析を行う予定である。
さらに癌細胞をヌードマウスに投与した移植モデルを用いて、RNA Seqによって特定された分子の修飾やPKA活性化剤が腫瘍の増殖に及ぼす影響をin vivoで検討する予定である。
これらの解析によって間質圧の上昇が肺癌を促進するメカニズムをさらに解明し、新たな治療法を開拓する予定である。

次年度使用額が生じた理由

COVID-19蔓延の影響により研究に従事できない期間があった。第4~6波の期間にはCOVID-19の重症病床の担当科(呼吸器内科)の病床運営の責任者(病棟医長)として診療にあたっていたため、感染の流行状況に合わせて研究に従事できない状況が続いた。また当院でも院内感染を繰り返しており、院内感染が発生した際にも呼吸器内科の責任者として緊急的な対応が求められ、計画的に研究を進めることが困難な状況が続いた。また同時期にはCOVID-19蔓延に伴い本研究で必要なトランスウェルのフィルターが入手できない状況も続いていた。
第6波が終了した2022年4月頃からはCOVID-19の重症患者が減少してきたため、計画的に研究の予定を立てることが徐々に可能となってきた。またトランスウェルのフィルターが入手困難な状況についても現在は解消している。
これらのCOVID-19蔓延の影響のため、本研究費の1年目の執行は予定よりも大幅に少額となり、2年目もCOVID-19蔓延の影響が残っていたため次年度使用額が生じることとなった。研究計画は一部の定量的な解析を除き概ね予定通り進行しており、次年度はRNA Seqやヌードマウスを用いた解析など当初の研究計画に沿った実験を予定している。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)

  • [雑誌論文] Heterogeneity among tumors with acquired resistance to EGFR tyrosine kinase inhibitors harboring EGFR-T790M mutation in non-small cell lung cancer cells2022

    • 著者名/発表者名
      Katayama Y, Yamada T, Tokuda S, Okura N, Nishioka N, Morimoto K, Tanimura K, Morimoto Y, Iwasaku M, Horinaka M, Sakai T, Kita K, Yano S, Takayama K.
    • 雑誌名

      Cancer Medicine

      巻: 11 ページ: 944-955

    • DOI

      10.1002/cam4.4504

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Effects of interstitial pressure on lung cancer cells2023

    • 著者名/発表者名
      Shinsaku Tokuda, Keisuke Onoi, Tadaaki Yamada, Koichi Takayama
    • 学会等名
      AACR Annual Meeting 2023
    • 国際学会

URL: 

公開日: 2023-12-25  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi