研究課題/領域番号 |
21K15519
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
町野 英徳 国立研究開発法人理化学研究所, 革新知能統合研究センター, 研究員 (60833762)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高異型度卵巣漿液性がん / マルチオミックス解析 / 上皮間葉転換 |
研究実績の概要 |
高異型度卵巣漿液性がんの正常由来細胞から樹立した多段階発がんモデル細胞群に対してRNA-seq、ATAC-seq、ChIP-seqの統合解析を実施し、発がん過程におけるクロマチン構造の初期変化を探索した。 RNA-seqデータを用いて主成分分析を実施したところ、不死化細胞に変異型TP53、変異型KRAS、MYCの3つのがん遺伝子を導入した細胞に最も大きな変化が生じていた。そこで、不死化細胞→がん化細胞の過程で生じた発現変動遺伝子に対してGene ontology解析を行ったところ、rRNA processingの亢進、Cell adhesionの抑制が生じていた。これはがん化の過程で、それぞれ、タンパク質合成が活性化していること、上皮間葉転換が生じていることを示唆している。 ATAC-seqデータを用いて転写因子モチーフ解析を実施したところ、発がん初期にAP-1 familyの亢進とGATA familyの抑制が生じていることが推測された。臨床検体を用いて上記結果を検証するために、正常由来細胞から上皮内がん細胞、浸潤がん細胞に変化するまでの一連の細胞集団を含む組織標本を作成した。免疫組織染色の結果、正常由来細胞と比較して上皮内がん細胞と浸潤がん細胞においてAP-1 familyのJUNが発現上昇し、GATA familyのGATA6が発現低下していることが確認された。ChIP-seqデータでも、卵巣がん細胞株でJUNのエンハンサー活性が上昇し、GATA6のエンハンサー活性が低下していることが認められた。 AP-1 familyの亢進とGATA familyの抑制は上皮間葉転換を促進させるため、これらの転写因子の機能異常が卵巣がんの発がんに寄与している可能性が示唆された。上記研究は、現在、Experimental & Molecular Medicine誌の査読対応中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
マルチオミックス解析基盤が構築され、解析結果を検証するための実験資材も確保することができた。結果として順調に研究成果が蓄積されており、現時点で、Experimental & Molecular Medicine誌(インパクトファクター12点)のmajor revisionを受ける段階に来ているため。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果によって、卵巣がんの発がん過程でAP-1 familyとGATA familyのエピゲノム異常によって上皮間葉転換が誘導されることが示唆された。現在、Experimental & Molecular Medicine誌の査読において、上記の機能異常に対する治療方法の有無について指摘を受けている。研究者は既に上記の機能異常によってRASシグナルが活性化されることを見出しているため、今後、AP-1 familyとGATA familyに機能異常のあるがん細胞に対するRAS阻害剤の治療効果を検証してゆきたいと考えている。また、前年度に引き続き、マルチオミックス解析の精度をさらに向上させるため、全ゲノムシークエンスデータを用いて転写因子の結合異常を抽出する解析パイプラインを開発したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に解析用計算機の設備投資をする必要があるため。
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