高異型度卵巣漿液性がんの正常由来細胞から樹立した多段階発がんモデル細胞群に対してRNA-seq、ATAC-seq、ChIP-seqの統合解析を実施し、発がん初期過程におけるエピゲノム異常を探索した。 RNA-seqデータに主成分分析を行ったところ、不死化細胞に変異型TP53、変異型KRAS、MYCの3つのがん遺伝子を導入した細胞に最も大きな変化が生じていた。そこで不死化細胞→がん化細胞の過程で生じた発現変動遺伝子に対してGene ontology解析を行ったところ、rRNA processingの亢進、Cell adhesion の抑制が認められ、がん化の過程でタンパク質合成と上皮間葉転換が活性化していることが示唆された。 次にATAC-seqデータに転写因子モチーフ解析を行ったところ、発がん初期にAP-1 familyの亢進とGATA familyの抑制が認められた。ChIP-seqデータでも、卵巣がん細胞でAP-1 familyのエンハンサー活性が上昇し、GATA familyのエンハンサー活性が低下していることが認められた。 上記の結果を検証するために、正常由来細胞→上皮内がん細胞→浸潤がん細胞への一連の変化を評価することができる臨床検体組織標本を作成した。免疫組織染色の結果、正常由来細胞と比較して上皮内がん細胞と浸潤がん細胞において、AP-1 familyのJUNが発現上昇し、GATA familyのGATA6が発現低下していることが確認された。 AP-1 familyの亢進とGATA familyの抑制は上皮間葉転換を促進することが知られており、これらの転写因子異常が卵巣がんの発がんの初期過程に重要な意義をもつと考えられた。 本研究は、Experimental & Molecular Medicine誌に報告し、国内外に向けて多施設共同のプレスリリースを実施した。
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