がんを標的とした抗体医薬開発にあたって、標的分子の選択は重要である。これまでの抗体医薬の標的分子としては、がん細胞に特異的に発現している分子や正常細胞に比べてがん細胞で過剰に発現している分子が選択されている。しかし標的分子が正常細胞にも発現していると副作用のおそれが高まる。近年、正常細胞とがん細胞で発現している分子に対して糖鎖修飾の違いを認識することで、がん細胞を特異的に認識する抗体が得られている。このような抗体を開発することができれば副作用のない抗体医薬品を開発することが可能となるため、がん細胞特異的に認識するモノクローナル抗体の開発が望まれている。 ヒト上皮成長因子受容体3(HER3)の過剰発現は、いくつかの固形がんで、予後不良の因子として考えられている。さらにEGFRやHER2を標的とした治療薬に対する耐性の克服にも関連していることが報告されている。そのためHER3はがん治療の標的分子として注目されているが、HER3はがん細胞のみならず正常細胞にも発現している。 そこで本研究では、①がん特異的ル抗体を作製する手法であるCasMab法を用いたがん細胞特異的抗HER3抗体の樹立、②糖鎖とペプチドの両方をエピトープに含む腫瘍型抗糖タンパク質抗体の実態の解明、③糖鎖不全細胞株を用いがん細胞特異的抗HER3抗体の解析を行うこととし,研究を推進している。 具体的には、免疫およびスクリーニングに細胞を用いてモノクローナル抗体を作製する手法であるCBIS法を用いて、フローサイトメトリー解析においてHER3を特異的に認識するモノクローナル抗体を多数作製した。さらにそれらの抗HER3抗体の中から、HER3を発現している正常細胞には反応せず、がん由来細胞にのみ反応するものを、フローサイトメトリーを用いたスクリーニングを行った。その結果、がん由来細胞にのみ反応する抗HER3抗体を得ることができた。
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