研究実績の概要 |
本研究では、胃発がんの代表的がん抑制遺伝子であるARID1Aの分子機能に着目するとともに、その抑制能に転写因子の介在が不可欠と考え、それらの同定を試みている。具体的な方針として、正常胃上皮のモデル細胞としてGES1細胞を選び、A) ARID1A欠損GES1細胞の樹立、B) ARID1A欠損GES1細胞を題材として胃発がん関連転写因子の探索、C) それら転写因子群の機能解析の3つを掲げている。
A) 胃がんにおいて特に変異頻度の高いARID1Aに加え、SWI /SNF複合体を構成するその他ARID1B, ARID2, BRG1, BRMの欠損細胞も樹立した。これら細胞の樹立により、ARID1A単一分子の機能だけでなく、胃組織におけるSWI/SNFの役割を包括的に解析できるようになった。加えて、ARID1A欠損細胞にFKBP12変異体タグを融合させたARID1A改変遺伝子を新たに導入し、PROTAC化合物誘導性のARID1A欠損細胞株も樹立した。この細胞を活用し、ARID1A機能喪失後、比較的早期に生じるクロマチン構造の異常まで解析できる。 B) Anti-ARID1A抗体を用いたChIPアッセイを実施し、GES1細胞における10,628サイトのARID1A結合領域を決定できた。これら領域のモチーフ検索を実施したところ、AP-1, TEAD, NF1など転写因子モチーフの有意な濃縮が認められた。実際、これらモチーフの周辺では、ARID1Aの欠損に伴ってMNase-seq並びにATAC-seqの平均プロファイルの異常が観察される。これと同時にヒストン修飾の異常、加えて比較的長期の培養後にDNAメチル化修飾の増進も観察された。従って、これらモチーフに結合する一部転写因子の活性にはARID1A機能が不可欠であり、この機構の破綻が胃発がんに寄与している可能性が示唆された。
|