研究実績の概要 |
ARID1Aは胃がんで高頻度に変異の見つかるがん抑制遺伝子であり、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体の主要因子として、下流遺伝子の発現に寄与している。しかし、特異的なDNA配列への結合能は知られておらず、そのがん抑制能については多くの不明な点が残されていた。本研究では、この分子の機能発現にDNA結合性の転写因子の介在が不可欠と考え、それら同定を試みた。 正常胃上皮由来のGES1細胞をモデルに選び、クロマチン免疫沈降-次世代シーケンシング(ChIP-seq)法を主体に50,000を超えるARID1A分子の結合領域を見出した。その多くは活性化エンハンサーと重複しており、領域内のDNA配列をモチーフ解析に供することで、AP1など発がんに関わる転写因子の認識配列が濃縮されていることが分かった。 さらに、ARID1AがAP1下流の遺伝子発現に関与するかを検証する目的で、CRISPR-Cas9技術を活用してARID1Aはじめ一連のSWI/SNF複合体因子群のノックアウトGES1細胞を樹立した。これらをエピゲノム横断的な解析(各種ヒストン修飾のChIP-seq、ATAC-seq、MNase-seqなど)に供した結果、AP-1認識配列周辺のクロマチンリモデリングにおいては、特にARID1AとBRG1が特に優位に働いていることが分かった。一方、これら因子と相同性が高く、互いに機能代償できると予想されていたARID1BやARID2、BRMではその効果はほとんど認められなかった。 以上、ARID1AがAP-1転写因子を足場として周辺のクロマチン環境と遺伝子発現を規定している可能性が考えられた。これらAP-1認識配列の周辺には胃上皮細胞の分化を決定づける転写因子のモチーフが見られることから、ARID1A機能喪失によるこれら機構の破綻が胃発がんに大きく寄与している可能性が示唆された。
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