本研究は腫瘍血管内皮細胞がセルロプラスミンを産生し、がんの鉄イオン代謝調節を介して薬剤耐性を与えるメカニズムの解明を目指したものである。本年度は(1)血管ニッチ―鉄イオン代謝軸を制御する分子機構の解明、および(2)このがん微小調節機構の普遍性と治療応用性の可否について評価を行った。 (1)血管内皮細胞特異的セルロプラスミンノックアウトマウスに膠芽腫同所移植モデルを作製し、抗がん剤耐性化が誘導されるのか検証した。ノックアウトマウスでは血管内皮細胞による腫瘍内での鉄代謝が抑制され、鉄結合タンパク質フェリチンの腫瘍内への沈着が抑制された。この鉄イオンはSteap2を介したエンドサイトシースを経て、細胞核内へ運ばれており、DNA脱メチル化酵素Tet3の補因子として作用していた。結果的に、がん細胞のゲノムにエピジェネティックな変化が引き起こされ、耐性遺伝子Mgmtが誘導されること分かった。同モデルマウスで化学療法に対する生存曲線解析を行ったところ、ノックアウトマウスではより良好な生存期間の延長が見られた。 (2)膠芽腫以外に乳癌、大腸がん、肺がん、悪性黒色腫モデルを作製し、同様のがん血管微小環境調節機構が作用するのか調べた。悪性黒色腫では膠芽腫と同じ鉄代謝経路を介した、ゲノムのエピゲノム調節が見られ、DNAアルキル化剤テモゾロミド耐性が誘導されることが明らかとなった。次に別種のDNAアルキル剤としてダカルバジンなどへの耐性化メカニズムへの関与を検討したが、エピジェネティック制御を介しておらず、全く異なるシグナル経路が耐性化に関与している結果が得られた。以上のことから、このがん微小環境制御機構はある程度の普遍的な性質を有する薬剤耐性誘導機構と言える。 本研究の成果は、膠芽腫や悪性黒色腫などの予後不良な悪性腫瘍の治療に繋がると期待される。
|