研究課題
様々な癌種で癌細胞の腫瘍内不均一性と腫瘍組織内に存在する免疫細胞の組成や性質が、癌の進展や治療抵抗性と関わることが知られてきた。我々はこれまでに、1切片から12種類のエピトープを免疫組織化学で解析できるmultiplex immunohistochemistry (IHC)ならびにその画像定量化技術image cytometryを初めて開発し、1枚の切片から定量化可能な10種類の免疫細胞の組成や性質・分布を統計解析することで、癌の亜分類や予後と相関する腫瘍の免疫的性質を報告してきた。この手法を用いて、我々はこれまでに、甲状腺乳頭癌において腫瘍組織内部の免疫特性が周囲非癌部と異なることや、病理学的侵襲性と骨髄系免疫細胞の細胞密度に相関がみられることから、甲状腺癌の発生・進行に免疫的機序が関与する可能性を報告してきた。本研究では、甲状腺濾胞癌被膜浸潤部に着目して、組織内免疫細胞分布のマッピングを通じて、癌の進行に関わる免疫的機序を解析し、甲状腺濾胞癌の早期診断や発癌機序の解明に寄与する組織バイオマーカーの確立を目的とする。令和5年度は前年度で解析した甲状腺濾胞癌症例81例における多重免疫染色ならびにデジタル画像解析で得られた、濾胞癌巣内と周囲非癌部における免疫的微小環境の知見をもとに、濾胞癌形成に関わる免疫的微小環境因子の探索を行った。これらの研究成果の一部を国際学会American Association for Cancer Research Annual Meeting 2023、国内学会第47回日本頭頸部癌学会にて発表した。
2: おおむね順調に進展している
令和5年度に予定していた濾胞癌形成に関わる免疫的微小環境因子の探索が予定通りに進行した。
令和5年度から継続して、濾胞癌形成に関わる免疫的微小環境因子として下記の探索を行なう。・免疫細胞同士や腫瘍細胞と免疫細胞の位置関係:本手法では細胞の位置情報を単一細胞レベルで検討することが可能であるため、免疫細胞間や、癌細胞と各種免疫細胞の距離が解析可能である。申請者たちはこれまでに森林学の統計手法であるpair correlation解析を用いて、免疫細胞間の距離を統計的に解析する試みを報告している(Tsujikawa et al. Cancer Science 2020)。本研究課題においても本解析を適応し、濾胞癌の周囲、具体的には20 μm未満の周囲に存在する細胞種の同定を通じて癌細胞周囲で形成される微小環境を探索する。・癌細胞解析パネルの追加:免疫組織化学により癌細胞に発現する様々なマーカーと予後との相関が歴史的に数多く報告されている。これまでのMultiplex IHC解析は免疫細胞について行ってきたが、申請者たちはこれまでにCancer of hallmarks(Hanahan & Weinburg)の12因子を1枚で解析可能な多重免疫染色パネルを構築し、頭頸部扁平上皮癌で報告してきた。本研究課題においても、このパネルの一部をGalectin-3, HBME-1, thyroid peroxidaseなどの甲状腺癌に関連する免疫組織化学マーカーと入れ替えて解析し、癌細胞の悪性形質と免疫特性との相関を検討する。
上記の通り当初の研究計画通りに進行したが、130364円が残額として生じたため、次年度の免疫組織化学解析で使用する抗体購入費に当てる予定である。
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