研究課題
細胞死の一形態であるフェロトーシスには、複数のがん種およびがん種特有な性質が関連していることが知られている。一方で最近、細胞密度が上がるとフェロトーシスが起こりにくくなる例が複数報告され、注目を浴びている。この現象は、体内で転移するがん細胞が凝集すると細胞死を回避しやすくなることを示唆しており、メカニズムの解明が求められている。予備的検討において小胞体におけるカルシウムイオン放出の関与が示唆されたことから、本研究では、まずカルシウムを介したシグナル伝達と密度依存的なフェロトーシスとの関連について検討を行った。具体的には、密度依存的なフェロトーシス抵抗性を示すメラノーマ細胞株いくつかをそれぞれ異なる細胞密度で播種し、カルシウムキレート試薬をはじめとする複数のカルシウムシグナル伝達阻害剤とフェロトーシス誘導剤との共処理を行った。その結果、フェロトーシスが誘導されやすい低細胞密度において、細胞死回避を招く阻害剤を見出した。一方で、当該メラノーマ細胞株の一つに関して、低/高細胞密度におけるトランスクリプトームおよびメタボロームデータの比較解析を行った。その結果、高細胞密度において脂肪酸代謝が亢進していることが示唆された。その関連分子の中でも特に亢進がみられたSCDに着目し、複数のメラノーマ細胞株を用いて検討を行ったところ、細胞密度の上昇に伴ってSCDの遺伝子およびタンパク質発現が亢進することを認めた。そこで薬理学的または遺伝子学的にSCDを阻害すると、細胞密度が高いほどSCD阻害によるフェロトーシス誘導効果が認められた。以上より、高細胞密度におけるフェロトーシス抵抗性に寄与する分子の一つとしてSCDを同定した。本年度は、本研究の目的をより精緻に達成するため、当初の計画を変更して一年延長させていただき、公共データを用いた遺伝子依存性の比較解析と国際学会発表、論文投稿を行った。
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Journal of Cellular Biochemistry
巻: 125 ページ: e30542
10.1002/jcb.30542