研究課題/領域番号 |
21K15540
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
佐々木 崇晴 順天堂大学, 大学院医学研究科, 助教 (60779718)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 食物抗原 / 腸管免疫 / 消化器腫瘍 |
研究実績の概要 |
AOM/DSS投与によって消化器腫瘍を誘導したマウスに無抗原食を摂食させると、1回目の実験では腫瘍部位においてLgr5などのがん幹細胞マーカーの発現が顕著に増加することを見出していたことから食物抗原が癌幹細胞の増加させることが示唆された。その再現性を確認したところ、2回目の実験では1回目の実験のような顕著なLgr5の発現増加は見られなかった。したがって、1回目の実験において見られたLgr5発現の増加は食物抗原そのものではなく、無抗原食によってもたらされる腸内細菌叢の変化によってもたらされたものであることが示唆された。1回目の実験における糞便を用いて腸内細菌の解析を行ったところ、無抗原食群ではLgr5の発現と正の相関を示す細菌が3種、負の相関を示す細菌が2種類見つかった。さらに、糞便中の水溶性代謝物の解析をLC-MSによって行ったところ、腫瘍の悪化に関与することが知られる代謝物がLgr5の発現と正の相関を示した。即ち、1回目の実験では無抗原食の摂食によって増加した細菌によって産生される代謝物がLgr5の増加を促した可能性が考えられた。2回目の実験では異なる腸内細菌の組成となったことでLgr5の発現上昇が見られなかったと考えられる。以上の結果は腸内細菌と腫瘍との関係性を探る研究上で重要ではあるが、食物抗原が消化器腫瘍に及ぼす影響について探る本研究課題の趣旨とは異なる為、腸内細菌についての解析はここで保留とした。 一方、これまでに消化器腫瘍を自然発症するAPCminマウスにおいて食物抗原がその腫瘍形成を抑制する研究結果を得ていたので、次年度はそのメカニズムについて調べていく研究に方向転換することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
AOM/DSS投与によって消化器腫瘍を誘導したマウスに無抗原食を摂食させると、1回目の実験では腫瘍部位においてLgr5などのがん幹細胞マーカーの発現が顕著に増加することを見出していたが、2回目の実験では1回目の実験のような顕著なLgr5の発現増加は見られなかった。即ち、Lgr5の発現増加は食物抗原ではなく、無抗原食によってもたらされる腸内細菌の変化が原因であると考えた。腸内細菌の解析も行い、Lgr5の発現増加に関与する腸内細菌の候補まで絞り込んだが、食物抗原が消化器腫瘍に及ぼす影響について探る本研究課題の趣旨とは異なる為、解析をここで保留とした。 したがって、当初の研究計画の変更を余儀なくされた為、やや遅れが生じている。 しかし、別の消化器腫瘍誘導モデルであるAPCminマウスにおいて食物抗原がその腫瘍形成を抑制する結果を得ているので、そのメカニズムをより詳細に調べていくことによって本研究を発展させる準備がある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、消化器腫瘍を自然発症するAPCminマウスを用いることにより、食物抗原が腫瘍形成を抑制することを見出していた。したがって、この研究に基づき、今後は食物抗原がどのようにしてAPCminマウスの消化器腫瘍を抑制するか探っていく研究に方向転換を行う。特に、腸管の免疫誘導組織であるパイエル板を欠損するAPCminマウスでは消化器腫瘍が増加することから、パイエル板の上皮細胞が腸内から食物抗原を取り込み、消化器腫瘍を抑制しているのではないかという仮説に基づいて研究を行う。即ち、パイエル板の上皮細胞が食物抗原を取り込む可能性を免疫組織化学染色法等を駆使して検証すると共に、食物抗原の取り込みを担う上皮細胞の同定、ならびにこの上皮細胞を介した食物抗原の取り込みが食物抗原による腸管免疫系の誘導や消化器腫瘍の抑制につながる可能性について検証していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の仮説に反する実験結果となったため、研究計画を変更せざるを得なくなった。そのため、初年度に使用する予定であった金額が大幅減少となった。さらに、昨今のコロナウイルス感染症の蔓延に伴い輸入品の到着が遅れなどにより研究進行の遅延も生じた。 次年度は食物抗原による免疫細胞の誘導とAPCminマウスにおける腫瘍の抑制についてより詳細なメカニズムを突き詰める上で上皮細胞や免疫細胞について解析を行っていく。したがって、組織の処理や免疫組織化学染色・フローサイトメトリーに必要となる高価な試薬を多く使用することが想定され、生じた次年度使用額はこれらの実験に充てる予定である。
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