これまで、消化器腫瘍を自然発症するAPCminマウスを用いて、食物抗原が小腸腫瘍の発生を抑制する研究結果を得るとともに、この現象にパイエル板における小腸免疫系の誘導が関与していることを見出していた。昨年度は食物抗原による小腸免疫系の誘導に、パイエル板の濾胞随伴上皮細胞層 (FAE; Follicle-associated epithelium)に存在するM細胞が関与する可能性を示唆する実験結果を得ていた。小腸のT細胞誘導におけるM細胞の関与を調べるため、M細胞欠損マウスを用いて検証を行った。その結果、M細胞欠損マウスでは小腸の1型ヘルパーT細胞が減少していた事から、M細胞が小腸における1型ヘルパーT細胞の誘導に関与することが示唆された。また、食物抗原を除去した食餌(無抗原食)で飼育したM細胞欠損マウスではこのような差は見られなかった。よって、食物抗原によるT細胞の誘導にはM細胞が関与していることが示唆された。 また、食物抗原による免疫細胞誘導機構の解析を行うため、無抗原食を摂食させた野生型マウスのパイエル板を用いたscRNA-seq解析を行ったところ、食物抗原によってパイエル板のnaive T細胞の機能変化に関与すると考えられる樹状細胞-T細胞の相互作用分子候補を65遺伝子見出した。特に、無抗原食で飼育したマウスではパイエル板樹状細胞におけるMHC分子の発現低下が見られており、樹状細胞にM細胞から受け渡される食物抗原が樹状細胞の抗原提示能を制御している可能性が考えられた。現在、本研究結果をまとめた論文を投稿中である。
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