免疫チェックポイント阻害薬は従来の抗がん剤とは異なり長期奏功例が10-20%で認められ、多がん種において新たな標準治療として確立しつつある。一方で免疫原性の低いがんでは効果が乏しく、既存の治療の組み合わせでいかに免疫原性を高めるかが重要な課題となる。本研究では分子標的薬がミトコンドリアストレスを起点とした自然免疫応答を惹起する現象に着眼し、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果をより高める治療開発を目的とする。 まず分子標的薬でEGFRを阻害すると、カスパーゼ経路の活性によるアポトーシスの誘導と同時に、cGAS-STING経路の活性の原因となるミトコンドリアDNA(mtDNA)の漏出が起こることを見出した。アポトーシスは免疫抑制性の細胞死として知られており、カスパーゼ経路がcGAS-STING経路を抑制する。そこで我々は分子標的薬によるアポトーシスと同時にカスパーゼ経路を阻害することで、免疫原性を高めることが可能ではないかと考えた。実際にEGFR遺伝子変異肺がん細胞においてEGFR阻害薬(オシメルチニブ)にカスパーゼ阻害薬を加えることでcGAS-STINGを介したI型インターフェロン応答の著明な上昇が認められた。エチジウムブロマイド暴露でmtDNAを消失させたRho0細胞ではコンビネーション治療によるcGAS-STINGの活性化が解除された。Egfr変異型のマウス皮下腫瘍(C57BL/6野生型)に対してオシメルチニブとカスパーゼ阻害薬による併用効果が認められた。さらに併用治療群で増悪後でもPD-1抗体が効果を示すことが明らかになった。FCMによるTIL解析で併用治療群でのCD8陽性T細胞の細胞数およびPD-1の発現上昇が見られた。 以上よりmtDNAダイナミクスをターゲットとした新たながん免疫複合療法の可能性が前臨床モデルで示された。臨床応用を目指した治療開発を続けていく。
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