研究課題
悪性神経膠腫は手術摘出による完全治癒が困難であり、放射線や化学療法といった後療法に対しても抵抗性である。薬剤抵抗性の主要因として血液脳関門(blood-brain barrier: BBB)の存在による薬剤送達(drug-delivery system: DDS)の問題が挙がる。本研究では悪性神経膠腫モデルに対しバブルリポソーム(bubble lipopolyplexes: BL)製剤と集束超音波(focused ultrasound: FUS)装置を用いてBBBを開口させ、3次元薬物動態解析により安全で有効なDDSを実現し、ヒト悪性神経膠腫における化学療法の治療効果の向上を目的とする。正常および免疫不全マウスに対しBLとエバンスブルーを静注後、頭部にFUSを照射しBBB開口の効果と安全性を評価しBL量、超音波照射条件(照射強度、照射時間、Duty Cycle)を最適化した。また、U87MGヒト悪性神経膠腫細胞株脳移植マウスの作成に成功し、組織透明化技術を用いた共焦点顕微鏡による3次元解析手技を習得、確立した。上記照射条件でマウス脳に対してドキソルビシンを静注し脳内送達実験を試みたが、照射側薬剤濃度はコントロールの1.5倍程度で顕著なDDS効果は認められなかった。しかし、同照射実験系で薬剤を、COVID-19のワクチン開発で世界的に注目を集めているmRNA封入脂質ナノ粒子(LNP)へ変更し、ルシフェラーゼ発現mRNA封入LNPと蛍光タンパク質(ZsGreen1)mRNA封入LNPの脳内送達(発現)に関して検討したところ、脳実質内に高いルシフェラーゼ発現と、3次元薬物動態解析から血管内皮細胞およびグリア細胞でZsGreenの発現亢進が認めれられた。これにより、FUSとBLによるBBB開口によりmRNA封入LNPを脳実質へ送達できることを実証した。今後は、薬剤封入技術を応用し、神経膠腫モデルに対して抗癌剤(ドキソルビシン)封入リポソームやmRNA封入LNPをFUSとBLにより脳内送達し抗腫瘍効果を得ることで、化学療法の治療効果の向上を期待できる可能性がある。
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Journal of Controlled Release
巻: 348 ページ: 34~41
10.1016/j.jconrel.2022.05.042