本研究は、空間トランスクリプトーム解析技術とナノポア型ロングリードシークエンス技術を用いて、肺腺がんの組織上に生じる多様なゲノム変異およびトランスクリプトーム異常を明らかにし、がん組織局所におけるがんの進展を分子レベルで明らかにするものである。本研究では、計8症例の肺腺がん凍結手術検体における空間トランスクリプトーム解析において、ライブラリ調製の過程で得られる全長cDNAを増幅し、ナノポア型長鎖シークエンサーで解読することで、各スポットにおける点変異や領域特異的なスプライシングパターンの抽出を実施した。すでに取得済みのショートリードデータから解読された位置バーコードおよびUMIペアを参照し、得られたロングリードデータを解析し、位置バーコード・UMIが正しく抽出できたリードのみを以後の解析に供した。本研究では、全長cDNAライブラリをそのままシークエンス解析した全トランスクリプトームデータと、キャプチャーパネルを用いてがん関連遺伝子を濃縮したターゲットシークエンスデータの両者を取得し、ロングリードキャプチャーによるがん関連遺伝子の濃縮が可能であるかの評価も実施した。実際にターゲットキャプチャーを実施することで、ドライバー変異を有するがん遺伝子のリードを効率よく解析することができ、位置バーコード・UMIペアと、変異ステータスを結びつけることができている。本研究成果は学会のセミナーにて紹介した。また、本研究の内容に関連する和文総説を執筆した。 本研究では、並行して空間トランスクリプトームデータの遺伝子発現解析を実施し、各領域を遺伝子発現クラスターに分けて詳細にアノテーションを行った。さらに、各領域における変異ステータスの確認のために、空間トランスクリプトームに供した組織切片の近傍より切片を取得し、局所の組織切片を採取してゲノムシークエンス解析を実施するための実験検討も実施した。
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